―――――ポタッ……ポタポタ。
腕を伝い、止まる事無く溢れ出る血液。
未だどちらも声を発しない。
何も無かったかの様にただ寄り添って。此方から見えるのは、市丸隊長の顔。
歪みきった、気持ちの悪い笑顔。
―――グチャリ。
鞘の動く音に重なって、再度聞こえた鈍い音。
「……っ」
小さく、微かに聞こえた苦痛な声。
「冬…何時もの様に泣かへんの?」
重なる様に口を開いた市丸。
「ふざけんな…」
「ふざけてへんよ」
ニタリ…、不気味に笑う。
「なぁ、怒ってはるの?」
「……」
「なぁ…」
―――グリッ。
「…ッ!!」
突き刺さる刃を軽く捻る。
その瞬間、日番谷の膝が崩れ落ちた。
崩れると共にスルリと刃は抜け、市丸の手に残る。ポタリ滴る鮮血はユルリユルリと土に吸い込まれ。
「ごめんなぁ。痛かった?」
「何……考えてんだ」
「何って、スグ殺すの勿体無いやん?」
「……ッ」
ペロリと自身の手に付いた返り血を舐め上げ、市丸は満足そうに微笑む。
日番谷は微動だにせず市丸を見上げている。
「………そのままや。そのまま僕の事だけ思って死んでいき」
その言葉を俺自身が頭で理解するより早く、日番谷隊長は動き出していた。
「くそッ……!」
瞬歩で市丸より離れ、一気に霊圧を最大に上げる。
突如、爆発的に上がった二つの霊圧。弱りきった阿散井は成す術もなく傍観するしかなかった。
「一瞬で楽にしたるから…」
スゥ……――。
市丸の眼が薄らと開いた。それは深い深い闇を纏った真紅の赤で。
「さいなら…」
卍解に値するであろう霊圧を纏い、市丸の刃は目標を定め不気味に輝いている。
「射殺せ…――」
斬魄刀の開放まであと僅か……と、その瞬間。
「縛道の六十一 六杖光牢」
一本の光の線が俺の横をすり抜け奔っていった。
慌てて光を追えば、其処には動きを封じられた市丸の姿があった。
「っっ誰や!!」
怒気を帯びた市丸が縛道をかけた人物へと振り返る。
つられて俺もその方向へ振り返った。
「市丸隊長、ここは争いをする場所ではございません。霊圧をお下げください」
少し離れた大木の下に卯ノ花が佇んでいた。そこには何時もの穏やかな表情は一切垣間見れない。
後方から続々と他の隊長等も集まってくる。
未だ市丸は動けない。
卍解に値する程の霊圧を抑える力。四番隊は戦いこそ出来ないものの、医学力と鬼道の力は他隊より優れていると聞く。
その隊の隊長であるその人は、いとも簡単にあの霊圧を抑えてしまったのだ。
総隊長が険しい表情で前に出る。
フッ…と、市丸を拘束していた縛道が解かれた。
「市丸三番隊隊長、阿散井六番隊副隊長。話を聞こう。今直ぐ一番隊室へ来るのじゃ」
そう一言。
静かに告げた総隊長は瞬時に姿を眩ました。
後を追うように市丸もまた瞬歩でこの場を後にした。
その後、卯ノ花に連れられた阿散井も一番隊室へ向かった。
この場にはあの争いの真実を知る者は居なくなった。
「日番谷隊長っ!」
十番隊執務室に残れと命令していた筈の松本が、血相を変えて日番谷へと駆け寄る。
「……大丈夫だ」
「取り合えず救護室に行きましょう」
「あぁ…」
結局二人は、剣術の練習をしている内に白熱し過ぎただけだと言い訳をし、山本総隊長の怒りを沈めた。ただ、場を弁えなかった事に対して他の隊員達に示しが付かないとの事で、二人は処分を受ける事になった。
向こう一ヶ月、結界を張った自室に謹慎処分。
文句など言えるわけも無く、素直に頷いた二人はそのまま自室に篭ってしまった。
どんよりとした空気が漂っているのは、十番隊執務室。
「……隊長はお咎めが無くて良かったですね」
「そうだな…」
実際、日番谷は止めに入っただけの事。お咎めが無いのは当たり前の事で。
「ギンと恋次…本当に練習をしていただけなんですかね」
「さぁな…」
松本の言葉を適当にあしらいながら、日番谷は黙々と書類に目を通していた。
何時もの様に邪魔をする奴が居ないお蔭で、此処暫くの執務は日番谷一人でも難なくこなせてしまう。
アイツの事を考えない様にさっさと書類に印を押し、傷の疼きを思い出さないように思考を逸らす。
止まるとあの時の表情を思い出すから。
俺を殺そうとしたあの顔。
殺されるのが嫌な訳ではない。
ただ、あん時のアイツの顔が酷く悲しみに歪んだ表様に見えて。
ズキンッ……肩の傷が痛む。あぁ、またアイツの事考えてしまったか。
「―――――ちょう?」
「……」
「―――た―ちょう?」
「……」
スゥ〜ッッ
「隊ッ長ッッッ!!」
「う、うわっ?!何だよ松本…」
「もう、何回も呼んでたのに」
「悪い…」
「今日の書類終りましたよ?」
目の前には松本の手に山積みとなっている書類。今から一番隊に持っていくつもりなのだろう、丁寧に分けて束ねてある。
「あぁ…じゃ、今日はそれ持って行って終わりにしよう」
「きゃ〜!!その言葉を待ってたんですぅ〜」
「……はぁ」
執務を終えた日番谷は、自室とは真逆の廊下を足早に歩いていた。目指すは、阿散井の住まう副隊主室。
「おい、阿散井居るか?」
襖の前に立ち中に居るであろう人物に声を掛ける。が、返事は無い。
結界が張ってあるせいで霊圧が確認できない。居る事は間違いないのだが……。
「阿散井?」
「……日番谷…隊長っすか」
細々とした声が返ってきた。
「あぁ。入るぞ」
返事も聞かず襖に手を掛けゆっくりと開ける。
「?!」
阿散井を確認しようと中を見た瞬間、余りの惨状に日番谷は目を見開いた。
簡単に言えば、この部屋に台風が来たかのような散かりよう。家具は無残にも切り刻まれ、既に役目を果たしていない。
そして何より、阿散井自身が未だ傷も癒えず痛々しい感じがする。
「傷、まだ塞がってないだろう?寝てなくていいのか?」
「ハハッ…大丈夫っす。怪我は慣れてるっすから……」
阿散井の表情は、明らかに笑えていない。日番谷は中へと進み、阿散井の前に座った。
視線の先には今回かけた結界に必要な首枷。鎖こそ無いものの、結界の範囲外を行き来する事はできない。
掻き毟ったのか、首枷には鈍い色をした血が纏わり付いていた。
阿散井から滲み出る牽強感。
今回の件が、剣術の延長だとはとても思えない。
「……一体何があったんだ。教えてくれ」
いきなり確信を付いた日番谷の言葉。阿散井は目を逸らし、答えない。
「阿散井…」
大きな翡翠が真っ直ぐ見つめる。
「……すみません。言えないです」
居える訳がない。
市丸と争った元々の原因はアンタの事なんだから…。
「如何して言えないんだ?俺はそんなに信用無いか?」
「いぇ…そんなわけじゃ…」
ハッキリと話さないその態度に苛立ちが募る。
「じゃぁどんな訳があるんだ?ただ単に俺に言うのが面倒なのか?」
「違います……けど…」
我慢の限界だった。
市丸がなぜあのような行動に出たのか、何故辛そうな顔をしていたのか。
愛する人の不可思議な行動を掴めない焦慮に、頭よりも体が先に動き出していた。
――ガシッッ!
日番谷は阿散井の胸倉を両手で掴み上げる。が、阿散井は一向に顔を上げない。
「何が違うんだっ!訳を言えねぇって事はそー言う事だろうが!!」
握り締める手に力が篭る。
「……手を、放して下さい」
「てめっ、人の話し聞いてんのか!」
殴り掛かりそうな、そんな勢いで怒鳴っていた。すると……フワリ、阿散井が顔を上げた。
「やっぱり俺、アンタが好きだ……」
あぁ…止まらない。
この小さな隊長を俺の物に。
何かが解れると共に、体の疼きが暴走し始めた。
「阿散井…?」
何を言われたのが判らなくて。
「俺はアンタが好きだ。アイツより俺の方が良いって事、証明してあげますよ…」
言葉を理解した瞬間、じわじわと込上げる恐怖感。
立ち上がって部屋を出て行けばいい。大丈夫、ゆっくりと…立ち上がって……。
思うように動かない自分自身に焦りを覚えながら、少しでも離れようと後方へ下がる。
―――ガシッ。
「ひっ……!」
「逃げないで下さいよ…」
足が動かない。
見れば自分の足首を鷲掴む大きな手。
「ふざけた事は止めろ…。帰るから手を放してくれ」
平静を装うも、声が震える。
「……帰すわけないでしょう」
足首を掴んだまま、阿散井の体は上へ上へ。布の擦れる音が妙に大きく耳に届く。
「おいっ!冗談は止せッ」
「冗談でこんな事しないっすよ…」
ススス…なぞる様に指を太股へ。
捲れ上がった袴から除く白い肌が、さらに阿散井の感情を昂らせる。
「…っ」
ビクリと日番谷の足が跳ねれば、阿散井は口角を吊り上げ失笑。
「あぁ、やっぱり初めてじゃないから………期待しちゃうんすか?」
「なっ…」
「知ってるんすよ…市丸隊長との事」
「?!」
唯でさえ大きな瞳が更に大きく開く。
ペロリと舌舐め擦りをし、顔を震える少年へと近づける。
「やめっ…」
「アンタは俺のもんになるんだ…」
日番谷の細い手首を力一杯握り締めた。もう片方の阿散井の手は休む事無く日番谷の袴を手探りで脱がせ、小さなそれをスッポリ手に収めた。
「んぁっ…」
最悪だ…。
通常勤務の時は斬魄刀を持っている訳も無く、大人と子供の力の差は歴然で…。
阿散井は手の中に収めたそれを愛でる様に擦り上げる。
「頼むっ…止めてっっ」
悲願も虚しく奴の手は休む事はない。
「ぅんっ…あぁっ」
市丸の手によって開花した快楽は、阿散井の手でしても反応してしまう。
「いい声っすね…」
生唾を大袈裟に鳴らし、裂けるほどに口角を上げる。扱く手を止め、先日、市丸のそれを呑み込んでいた双丘の蕾へと指を這わす。
女の様に濡れないそこは当然、そのままでは指一本咥えさせる事は出来ない。日番谷は男、当然だ。
ふと下を覗き見れば屈辱と羞恥に目をきつく閉じ、固定された腕を何とか振り解こうと赤子程度の力でもがいていた。
ゾクゾクと加虐心が競り上がる。ベロリと舌を出し、その白く透通った喉を舐めた。
「ひ、いやっ……!」
堪らないとはこの事か。
獣の様に喉に貪りつき、その間に悲鳴を上げる日番谷の口内へ指を突き入れる。
バラバラと口内で動かし、舌を掴み引っ張って。テロテロに艶めくその指を迷いも無く小さな蕾へ突き刺した。
「……くあっ…あぅ、んんッッ!!」
無理矢理二本も指を入れたせいか、阿散井の指を咥えたそこはプツリと簡単に切れてしまった。垂れ落ちる血が更なる潤滑剤として奥へと誘う。日番谷の中は暖かかった。
「ふ、う……ぅぅっ、ん」
口を閉じて堪えてでも零れる嬌声に熱が一点に集中する。
盛った獣の様に息を荒げ、ハアハアと焦りながらも袴の紐を解き緩めた。
解いた袴はゆるりと腰を離れ、そこから盛る雄を取り出すと数回自らの手で扱き、脈動するそれを蕾に宛がった。
「駄目ッ……阿散井、ヤメッ……!」
日番谷は渾身の力を振り絞り身を捩る。それすらも己の雄を昂ぶらせる要因にすぎないと言うのに。
「市丸隊長のは受け入れてんのに……酷いっすね」
「市丸とお前は違うだろっ!」
「へえ……特別っすか」
ああ、このまま手足削いでここに閉じ込めておこうか。そうすれば何れ、市丸隊長の事を忘れる日が来るのだろうか。
「じゃ、俺が特別になるまで可愛がってあげますよ。精々可愛い声で啼いて下さい」
再度、小さな腰を掴み、自身の盛りの前で脚を開かせる。そのまま、僅かに乾いた蕾に自らの舌を突き入れ唾液を流し込み、同時に指を入れて解していく。
最中に日番谷の唸りが聞こえたが、一々構ってられるほど俺には余裕が無かった。
「射れますよ……」
グチョグチョに濡れた蕾に熱く盛ったそれを当てた。後は抉じ開け貫くだけ。
と、
「おーい、阿散井ぃー元気かー??」
「!!」
「!!」
襖の前から声がした。それが直ぐに檜佐木だと判り、
「くそッッ」
阿散井は極小さな声で怨声を発した。
同時に、カタリと襖に手が掛かった音。この状況で部屋に入られるのはまずい。
「檜佐木さんっすか?スンマセンけど今日は―――っっ!」
檜佐木に帰って貰おうと話し始めた阿散井の一瞬の隙を突いて、日番谷が腕の中からすり抜けてしまった。
焦った様子も恐怖に怯える素振りも見せず、日番谷は黙々と乱された衣服を整えて。ガラリと襖を開ければ案の定、檜佐木がそこに立っていた。
「ひ、日番谷隊長…」
思いもしなかった人物の登場に目を丸くする。
檜佐木の視線が日番谷に注がれてる最中に、阿散井は慌てて自らの衣服を整えた。
「隊長が来てるとは知らなかったんで…俺、帰りますっ」
何故か焦った感じの檜佐木は、本当にそのまま帰ろうと体の向きを変える。
「構わん。もう用は済んだ…俺は帰る」
そうして日番谷は何時もどおり、何も無かったかの如く帰って行った。
「隊長……」
小さくなる後姿を檜佐木は見えなくなるまで見詰め、そして大きな溜息一つ、阿散井の部屋へと入っていった。
カタ―――――……。
檜佐木と日番谷しか居なかった廊下に、スラリと伸びた影が一つ。その影は小さな少年を追う様に姿を消した。
第四章 End
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