日番谷が雨乾堂に篭り始めてから、当然の事と足を運ぶ面々。正当に来る者から、隙を突く者。全てを見抜く浮竹により、事無く決着。
時折、藍染と激しく言い争いになるものの、落ち着きを持った浮竹には到底適わなかったらしい。すごすごと帰る背中は、もう何度目か。
そんなこんなで、あっという間の三日間。
松本も無事帰還して、自分が居なかった間の話を浮竹より聞く。紐を付けておいて良かったですね!なんて言われながら、今後の事を相談。
結果、薬の効き目が薄れる残り半月、浮竹の元で過ごす事に決まった。
日番谷も面倒な事は嫌だと素直に頷いた。
三日、四日…一週、二週。
予定の日が近付くにつれ、男共の焦りも最高潮。今まで正当にいっていた者も同じく、隙を見て誘拐犯顔負けの行動をとったりし始めてきた。
正直、もううんざり。早く戻らねーかな…なんて考えて。
ふ、と。
頭に浮かぶはアイツの顔。
初めの頃は浮竹に泣き付いて来て、合わせろーとか喚いて煩かったっけ。
毎日毎日足を運んで。
毎日毎日叫んでいた。
そう言えば……最近姿を現さない。
思い出せば気付く、心の隙間。ぽっかりと、何かを求め。
「市丸…」
お前は今、何をしている?何処にいるんだ…?俺の事、飽きちゃった?嫌いになった?
今は真夜中。
日番谷は眠る浮竹を横目に、布団から身を起こす。そのまま障子に手を掛けて、一人何処かへ向かって行った。
「……やっと気付いたか」
やれやれ。
浮竹は日番谷に背を向けながら、ポツリ呟いた。そこから覗く口元は僅かだが微笑んでいて。
長い長い廊下。人の気配なんて無い。
パタパタと小気味良く小走りで。
「あっ……!」
すると、外にある岩に腰掛ける見覚えのある背中。立ち止まって、暫くの間眺める。
こちらに気付く素振りを見せないその人の元へ近付いて。
「市丸…」
声を掛ければ、望んでいた笑顔。しかし、寂しそうに感じるのは俺だけか。
「……こんな時間になにしてんだ?」
「冬こそ、どないしたん?」
酷く落ち着いた返答。更なる問い掛けに、思わずうろたえてしまう。
「あ、えと…最近、市丸の姿見ないから…」
「そう?」
「元気かなって…」
「僕は元気やよ?」
微妙な間。
何時もの感じと違うせいか、悲しい位に距離を感じてしまう。
これ以上側にいると泣き出しそうで、俺は黙って帰ろうとした。
「僕な…」
「え…?」
「僕な、冬の事大好きやねん…」
互いに背中を向けたまま。市丸は消えそうな声で話し続ける。
「大好きで大好きで、大切なんや」
日番谷は振り返り、背中を見つめる。何時もの感じは無く、落ち着いた、その背中。
「子供…冬が嫌なら我慢するし」
「市丸…?」
「せやから、僕の側に居ったって?」
離れるなんて嫌や。子供の様に、首を振って。市丸は下を向いたまま動かない。
「俺…市丸が好きっ…!」
そう言って、日番谷の細い腕は市丸の腰へと回された。
ぎゅうぎゅうと抱きついて、言いたい事がいっぱいあるのに話せない。
口を開けば、泣きそうだから。
「冬……」
優しく撫でる、大きな手。ポッカリ空いていた心の隙間が埋まった。同時に、安心してか零れる涙に嗚咽を交え、懐に顔を埋める。
「い、いち…まるっ……」
「ん?」
「子供…お前との子供…欲しい」
片言で話して、それでも伝わる言葉。撫でていた筈の手が頬に宛がわれる。
「……それ、ほんま?」
「うん」
「僕でええの?」
「うん」
だって、子供って愛の結晶でしょ?俺と市丸が愛し合っている証。
「……おおきに」
ポタリ、頬に当たった一滴。前髪が邪魔をして顔が見れない。握られた手は僅かに振るえ、それでも伝わる暖かな体温。
二人は部屋へと戻って行き、そのまま布団へと身を乗せた。
窓から差し込む月の光、二つの影は、静かに重なった。
End
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