「さて、書類の整理でもすっかな」
全員が無事門を潜るのを見送って、一人残った日番谷は背伸びをして戻っていった。
「冬」
入り口の階段で笑顔交えに座り込む狐一匹。久し振りの再開で日番谷にも僅かに笑顔が零れる。
「市丸、サボりか?」
「書類はちゃんと片付けたで?」
「珍しいな」
おいでおいでと手招きされて、なんの躊躇いも無く歩み寄る。
そのまま膝に跨って、ゆっくり腰を下ろせば背中に回る大きな腕。
「僕、冬に逢えへんで寂しかってんよ?」
判る?
市丸は頬を染める少年を覗き見て。
そのまま重なる唇。角度を変えて、何度も何度も。日番谷も市丸の首に腕を回し、答える。
後は何時もの順序で事が進むのだ、が……。
「冬……これ、何?」
「ふぇ…?あ、松本が…」
市丸が指差すモノ。日番谷の細腰に巻きつく何重もの腰紐。
「苦しくないん?」
「ちょっと苦しい…」
「ほな解こ!早ぅ解こ!!」
「え、でもっ…ちょ!?」
もはや神業ともいえる手付きで腰紐を解く市丸。だが、何重にも違う結び方で巻き付くそれに悪戦苦闘。
市丸の気がそちらに集中し始める。
「おわっ?!」
日番谷の驚いた声。
「冬?」
同じく、市丸も動揺を見せる。
「逢いたかったよ、日番谷君」
上空より聞こえたその声。見れば穏やかな瞳を覗かせた藍染の姿。
「さ、行こうか」
「え、行くって…」
「勿論、僕の部屋だよ」
「!!!」
暴れる隙さえない位に、藍染は日番谷を抱え瞬歩を使いこの場を消えた。
「はーなーせー!」
「あはは。威勢がいいな」
元気な子供が生まれるね。
そんな事を呟きながら、今は布団の上。
「嫌だっヘンタイ!退けよっ」
ジタバタ。
暴れてはみるけど、この体格差はどうする事もできなくて。
べろり、冷たい舌が少年の首を舐め上げる。
「んあっ…やだぁっ……!」
もう駄目だ。
日番谷の瞳には涙が浮かぶ。
「冬っ!!」
すると、勢い良く開けられた襖から市丸が飛び込んできて。
「市丸!」
「おっさんいい加減にしてや!ほんま射殺すで!」
「ほう、いい度胸じゃないか」
日番谷の奪い合いが始まった。初めは口だけの言い争いだったのに、段々とヒートアップして互いに刀を構えだす始末。日番谷は慌ててその場から逃げ出してなんとか無事。
「日番谷隊長!こっちです」
「檜佐木…」
遠くから傍観していた日番谷に掛かる声。
「日番谷隊長、こっちの方が安全すよ」
「阿散井…」
「いえいえ、こっちです!」
「吉良…」
廊下の左右と中庭の中央。四方八方で呼ばれたはいいが、
「え、ええ?」
どっちに行けばいいのか判らない。故に、あっちやこっちをふらふら千鳥足。
「こっちだ…」
ふわり、いい香りと共に真後ろからの声。
「朽木?!」
「安心しろ。子供の心配も不要だ」
「子供っ?!」
危険信号が再度赤に。浚われる!!先程の藍染の行動が頭を過る。
「いやだっ!離せっ」
暴れだす日番谷を片腕で抱える朽木。檜佐木、阿散井、吉良は物凄い勢いでこちらに掛けてくる。日番谷の悲鳴を聞いた市丸と藍染も加わって、朽木を中心に怒りを露にした男共が終結した。
日番谷は自分のものだ。
子供の父親は自分が相応しいとか。
将来はどうとか。
兎に角、そんな攻防が飛び交いぶつかる。
いい加減、日番谷の堪忍袋の緒が切れそう。ふるふると体を震わせ、怒り爆発寸前。
後僅かでブチ切れる。そんな時、
「お前ら止めないか!!」
自分の代わりに怒鳴ってくれた人物。
「浮竹!」
「冬獅郎、こんな奴等に付き合うことは無い。行くぞ」
「あ……ああ」
滅多に大声を出すことの無い浮竹の姿勢に圧倒されて、言い争いをしていたこのメンバーもピタリ口を閉じた。
日番谷は素直に従い、浮竹の側へ。そのまま手を引かれ、何処へやら消えていった。
残された男共は呆気に取られ、その場を立ち竦んでいた。
End
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