「隊長…本当に大丈夫ですか?」

此処は十番隊舎の門の前。
ズラリと何人かの隊員を連れ、松本が立っていた。

「ああ」

見送りに出ている日番谷は、何故か腰紐を何重にも巻かれ、苦しそう。

「それ、とっちゃ駄目ですよ」
「判ってる」
「三日です。我慢して下さい」
「……判ってる」

月も十日を過ぎて。
今日から松本率いる十番隊が現世へ討伐に出る日。
いくらここ数日平穏に過ぎているにしても、隊長を狙う奴がこのまま大人しく一ヶ月を待つとは限らない。寧ろ、何も無い静寂こそが何よりも恐怖を覚えるわけで。

何よりも心配なこと。自分が不在の今、隊長を守れる女性死神が居なくなると言う事。

その予感は見事的中。

松本が去った後、日番谷を取り巻く環境は大きく変わってしまった。

争奪編



「さて、書類の整理でもすっかな」

全員が無事門を潜るのを見送って、一人残った日番谷は背伸びをして戻っていった。

「冬」

入り口の階段で笑顔交えに座り込む狐一匹。久し振りの再開で日番谷にも僅かに笑顔が零れる。

「市丸、サボりか?」
「書類はちゃんと片付けたで?」
「珍しいな」

おいでおいでと手招きされて、なんの躊躇いも無く歩み寄る。
そのまま膝に跨って、ゆっくり腰を下ろせば背中に回る大きな腕。

「僕、冬に逢えへんで寂しかってんよ?」

判る?
市丸は頬を染める少年を覗き見て。
そのまま重なる唇。角度を変えて、何度も何度も。日番谷も市丸の首に腕を回し、答える。
後は何時もの順序で事が進むのだ、が……。

「冬……これ、何?」
「ふぇ…?あ、松本が…」

市丸が指差すモノ。日番谷の細腰に巻きつく何重もの腰紐。

「苦しくないん?」
「ちょっと苦しい…」
「ほな解こ!早ぅ解こ!!」
「え、でもっ…ちょ!?」

もはや神業ともいえる手付きで腰紐を解く市丸。だが、何重にも違う結び方で巻き付くそれに悪戦苦闘。
市丸の気がそちらに集中し始める。

「おわっ?!」

日番谷の驚いた声。

「冬?」

同じく、市丸も動揺を見せる。



「逢いたかったよ、日番谷君」



上空より聞こえたその声。見れば穏やかな瞳を覗かせた藍染の姿。

「さ、行こうか」
「え、行くって…」
「勿論、僕の部屋だよ」
「!!!」

暴れる隙さえない位に、藍染は日番谷を抱え瞬歩を使いこの場を消えた。





「はーなーせー!」
「あはは。威勢がいいな」

元気な子供が生まれるね。
そんな事を呟きながら、今は布団の上。

「嫌だっヘンタイ!退けよっ」

ジタバタ。
暴れてはみるけど、この体格差はどうする事もできなくて。
べろり、冷たい舌が少年の首を舐め上げる。

「んあっ…やだぁっ……!」

もう駄目だ。
日番谷の瞳には涙が浮かぶ。

「冬っ!!」

すると、勢い良く開けられた襖から市丸が飛び込んできて。

「市丸!」
「おっさんいい加減にしてや!ほんま射殺すで!」
「ほう、いい度胸じゃないか」

日番谷の奪い合いが始まった。初めは口だけの言い争いだったのに、段々とヒートアップして互いに刀を構えだす始末。日番谷は慌ててその場から逃げ出してなんとか無事。

「日番谷隊長!こっちです」
「檜佐木…」

遠くから傍観していた日番谷に掛かる声。

「日番谷隊長、こっちの方が安全すよ」
「阿散井…」

「いえいえ、こっちです!」
「吉良…」

廊下の左右と中庭の中央。四方八方で呼ばれたはいいが、

「え、ええ?」

どっちに行けばいいのか判らない。故に、あっちやこっちをふらふら千鳥足。

「こっちだ…」

ふわり、いい香りと共に真後ろからの声。

「朽木?!」
「安心しろ。子供の心配も不要だ」
「子供っ?!」

危険信号が再度赤に。浚われる!!先程の藍染の行動が頭を過る。

「いやだっ!離せっ」

暴れだす日番谷を片腕で抱える朽木。檜佐木、阿散井、吉良は物凄い勢いでこちらに掛けてくる。日番谷の悲鳴を聞いた市丸と藍染も加わって、朽木を中心に怒りを露にした男共が終結した。

日番谷は自分のものだ。
子供の父親は自分が相応しいとか。
将来はどうとか。

兎に角、そんな攻防が飛び交いぶつかる。
いい加減、日番谷の堪忍袋の緒が切れそう。ふるふると体を震わせ、怒り爆発寸前。

後僅かでブチ切れる。そんな時、

「お前ら止めないか!!」

自分の代わりに怒鳴ってくれた人物。

「浮竹!」
「冬獅郎、こんな奴等に付き合うことは無い。行くぞ」
「あ……ああ」

滅多に大声を出すことの無い浮竹の姿勢に圧倒されて、言い争いをしていたこのメンバーもピタリ口を閉じた。

日番谷は素直に従い、浮竹の側へ。そのまま手を引かれ、何処へやら消えていった。

残された男共は呆気に取られ、その場を立ち竦んでいた。

End



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