「え?」
日番谷が漸く落ち着きを持った頃、唐突に松本が言った一言で再度頭が混乱し始めた。
「ですから、私達”女性死神協会”が、その日まで隊長を守ります」
その日って……。
明らかに表情を歪ませる少年が一人。
それを確認して、松本は少し得意げに言葉を続けた。
日番谷が倒れたその後の言い争い。阿近を問い詰め、詳しく吐かせたその内容。
「あの薬は一ヶ月もすれば効力が消えるらしいです」
なので、その後は隊長は立派な男の子に戻ります。
そう付け足して、にっこりと微笑を交えて伝えた。
「それ…本当か?」
僅かだが、喜びに釣り上がる口元。日番谷は身を乗り出して話を聞いた。
「一ヶ月。私達は隊長を護衛させて頂きます」
未だ自分の置かれた状況を正常に判断出来ないまま、副官の戻ると言う言葉を信じ、二人は執務室へ戻るべく部屋を後にした。
「冬〜!」
ドドドドドドドドッッッ!!
地響きを轟かせ『アイツ』が掛けて来る。
「市丸っ!」
瞬きよりも早く、そいつは少年の目の前へ。
「冬っ大丈夫?気分悪ない?」
「だ…だいじょ、ぶ……」
「そか、そら良かったわ」
ヒョイッ!
「えっ?ちょ?!」
「僕の部屋行こーーー!」
「いや、おいっ」
市丸は日番谷を軽々と持ち上げ、肩に担いでいた。そのまま逆方向へ向かうべく、体の向きもそちらへ。
ドゴォッッ!!
「ぐへぇっ!?」
何やら鈍い音と共に、市丸の背が大きく湾曲する。
「残念ね、ギン。隊長は渡さないわ」
怒涛渦巻く松本が、大股を広げて仁王立ち。不動明王顔負けの面で市丸を見下す。
「乱菊っ!?今、僕の腹蹴ったやろ!?」
「当然。発情期の野獣は容赦無く成敗よ」
「野獣?!」
開眼する程に驚いてしまった市丸を軽く無視して、松本はそそくさと日番谷を連れ執務室に篭ってしまった。
その後、数日。
何の騒動も無く、平穏な日常が続いた。
女性死神達のお陰か否か。日番谷はあの日から一歩も外に出ていないので何も判らない。
だが、男共も黙っている訳が無い。徐々に動き出す気配に、日番谷は気付く余地も無く。
刻々と。
身の危険が迫る現状を呑気に過ごしていた。
End
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