藍染隊長に付いて行ったのは、単純に自らの能力を高める為。
なのに僕の想い人はそれを裏切りだと罵り、話を聞こうともしない。それ以前に、存在すら無かったかの様な扱いで。
君に対する気持ちに偽りなんて無い。発した言葉、飛ばした言霊。全てが僕本心の愛情表現だったのに。
訴えても訴えても聞き入れる事もせず、剰え現世に行ったと思えば違う男に媚売って擁護してもらう始末。
僕の事なんて微々たりとも考える余地すら与えない邪魔な輩共。腹立たしくて一人一人刻を刻み臓物を抉り出していけば、君の周りには塵さえも残ってなかった。
ああ、その眼……その眼が僕を狂わせる。
何処から湧いてくるのか、漆黒よりも暗い闇より這出た僕が僕に語り掛ける。
『手二入レロ……裏切リ者ヲコノ手ノ中二』
憎悪の眼差しで僕に刃を向ける日番谷。足掻いた所で敵いもしないだろうに。
小刻みに震えるその手が何よりの証拠。体は素直……昔から変わらない。
ならば、その体を手に入れよう。
面倒なココロなんて必要ない。僕に委ねる融解の時間を楽しめば良い。
「殺せよ」
血の海より少年を引きずり出して監禁した。
逃げ出したって構わない。
此処に出口なんて無いから。
「そない面倒な事したくも無いわ」
光さえも寄せ付けない密室。
もう自分しか居ないのに、日番谷を手に入れた気がしない。
「君が勝手に死ぬまで、僕を楽しませてな」
愛も哀れみも無いほど非情に抱いた。苦情に歪む顔さえも昂りを抑えられない。
毎夜毎夜行われる狂宴に君はただ耐忍んでいた。それでも僕は君を抱き、情事も終れば棄て寝かせた。
「護廷の隊長はんとも在ろう人が……えらい醜態晒してはりますなぁ」
玩具に拘束、自慰やら放尿、薬物や拷問。ありとあらゆる手を使ったが、何をしても君は素直にならない。
狂わせてはみたけれど、日番谷の死んだ目は市丸を見る事はなかった。
「……厭きてもうた」
嫌気が差して日番谷を放置したら、案の定、自ら命を絶っていた。
悲しいとは思わなかった。面倒事が無くなって寧ろ胸の痞えが取れ、あの日以来の酸素を肺に送ったと思う。
「日番谷はん……」
冷たく硬い床に転がる死体。ピクリとも動かない体を無造作に抱き上げ膝に落とす。
死んだ日番谷の眼は自分を見ていた。
これが自分が求めていたもの。喜びに笑いが止まらない。そして、涙も。
手に入れた、僕だけの冬獅郎。
入れた途端に消えた、それはまるで雪の様。
掌には水が滴る。消えた雪が残した存在の証。
それも直ぐに無くなってしまう。もう二度と手に入ることはないだろう。いっその事、自分も消えてしまえば溶けない雪に出会えるだろうか。
腕の中の日番谷が言葉を発した様な気がした。
『哀れ』
と。
また笑いが込み上げて来た。
そして腰に挿さる斬魄刀に手を掛ける。日番谷をキツく抱き寄せて、その背に切っ先を宛がう。
「射殺せ…神槍」
日番谷の体を貫き真紅の血を纏った斬魄刀は、汚れて哀れな市丸の体をも真っ直ぐに貫き。
二人の体は一本の刀でつなぎ止められた。
二度と甦って来ないように、魂を此処に縫い付けてしまおう。
二人の体が離れない様に鞘を握り締めて。
End
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