素直になりたい。大好きだって伝えたい。
でも直ぐアイツは調子に乗るから、素直になれない。

なりたくない。

月の光に照らされて



「……ん」
「冬…起きたん?」

ここは三番隊隊主室。二人は一組の布団に身を寄せ合いながら眠っていた。
外は月も隠れる程の厚い雲に覆われた漆黒の闇。唯静かに虫の音が耳に届くだけ。

「……腰が痛ぇ」
「あー…ごめんなぁ」
「謝る位ならこんな事すんな」
「せやかて、冬が悪いんよ?」

蝋燭の僅かな光が二人の影を揺らした。そこに見えた顔は、泣き腫らした目の日番谷と、至極満足そうな顔をした市丸だった。

「何で俺が悪くなんだよ」
「僕の事ちゃんと見てくれへんから」
「何だよそれ…」
「僕は冬が大好きなんや。なのに冬はちっとも振り向いてくれへん……」
「大好きとか、そんな餓鬼みたいな事言うな」

腫れた目を腕で押さえながら日番谷は深く溜息を落とした。

「餓鬼は冬の方や」
「喧嘩売ってんのか?」
「そうやなて、素直になれんのが餓鬼や言うとるの」

余りの反応の速さに市丸もまた、失笑と共に溜息を漏らす。

「俺は至って素直だぞ」
「そうかなぁ」
「なんだよ…もう寝るぞ」
「うん…おやすみ」





俺だってお前の事大好きだよ。毎日一緒に居たいし、離れるなんて考えられない。
大好きだって言われたら正直嬉しいし。抱き締められたら暖かい。
その温もりも、言葉も、誰にも譲る気なんて端から無い。

素直になりたい。


だけど駄目。


アイツは直ぐに調子に乗るから。だけど……





日番谷が、ふと横に眠る市丸を見詰める。規則正しい寝息。何だかホッとする。
外は先程から立ち込めていた雲も切れ、綺麗な満月が辺りを神々しく照らしていた。

「ギン……」

たまには良いかな。眠るこいつに今日だけ特別。



月の光に照らされて、


少しだけ素直に。




「ギン、大好きだよ…」

End


時には素直になる事も必要です。健康的にも、精神的にも。

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