「……僕を怒らせたいのかい?」
「違う」


「じゃあ如何して……」

散り花よ舞上り、咲き誇れ



サワサワと、耳に心地の良い水の音。月が煌々と照らす、ここは小川。

水に反射する光は眩しい位に二人を照らし、そして映し出された二つの影。

否、

下へと視線を落とせば、見えてくるもう一つの影。地面に伏した黒い塊。
人の様に見える形…しかし、それには何かが足りなくて。
ポタリ、照らされた少年の頬から滴り落ちる鮮血。同色の血溜りが少年の足元に伏した影にもに出来ていた。

「執務の事だと思ったんだ…」
「こんな夜更けに?」
「人に聞かれたくないのかと思って」
「だから人気の無い此処へ君を呼んだ…」

長い静寂を破り少年が話す。それを否定する男の声。

「つまり、これは浮気では無い。君はそう言いたいんだね?」





痛いほどの霊圧を放出させる男は五番隊隊長の藍染惣右介。顔色、声色共に穏やかなのは怒り狂っている証拠。

眉間に皺を寄せる、小さな少年は十番隊隊長日番谷冬獅郎。

「浮気なんてしたつもりは無い」
「でも、君の不注意がそうさせたのだろ?」
「だからっっ――」

「僕に黙って逢瀬をすることが、既に浮気と言うものなんだよ」
「逢瀬って…」

会話にならない言い争い。

「俺が浮気をすると思うのか?」
「さぁね」
「お前は俺がそんな奴だと思ってるのか?」
「如何だか」

「……あぁそうかよ」

先程までは、誤解を解こうと必死だった。だけど今は言葉を発する事さえ億劫になる。

捨て台詞の様に言い放つ言葉。言い終われば、襟を返し歩き出した日番谷。

「シロ?」
「お前とは話しになんねー」
「何処に行くんだい?」
「関係ないだろっっ」

苛立ちが募る。
俺は瞬歩を使って戻る事にした。一刻も早く、この場を去りたかったから。

――ガシッ…。

何かに引っ張られてその一歩を踏み出せない俺の足。腕に走る痛み。
辿れば、藍染の歪んだ顔。

「シロ……今度は誰の所に行くの?」

力一杯に腕を掴まれて。
眼鏡の奥で淡く光る藍染の眸に目が離せない。

「おい……藍染…」

ガタガタと震え始めた俺の体。
額には脂汗が浮き、声は裏返る。脳から直に聞こえた警告音。



「そんな事…させないよ」





「っっやだっ!!!離せっっ!!!」

乱暴に引き寄せられて、骨が折れそうな程に抱き締められた。

「如何して?恋人の浮気を止めるのがいけない事かい?」
「俺は浮気なんてしないっ」
「君がそのつもりでも、相手が…ねぇ」
「ふざけるな!!離せっっ」

体全体で拒絶して、如何にか腕を振り払おうと懸命に暴れてみるも。

「言う事を聞かない子は、嫌いだな」

ドサッッ…。
大きな腕に抱き締められて居た筈の体は、しかし今は地面に背を付け固定されて。

逃げたくとも、動かない体。
徐に、大人の体重が掛かって呼吸も間々ならない。

「やだっ…やめっ」

やっと出た言葉。
恐怖に怯える子供の声。

「藍染!!…んぅっっ!!」

返事なんてせずに、上から噛み付く様に唇を重ねた。
嫌がる日番谷の口内へ無理矢理舌を挿入させて、カチカチと歯がぶつかる音が響き、それと共に漏れる甘い吐息。

日番谷の瞳からは大粒の涙が溢れ出て、この行為が嫌だと懸命に訴え掛ける。
だからと言って止める気なんて毛頭無く、更に自由を奪って口内を荒らす。

「んんっ、あ…ぅっ」

日番谷の体から力が抜け出したのを確認して唇を離せば、飲み込みきれなかった涎を垂らす妖艶な姿。

下半身に熱が篭る。
子供相手に欲情するなんて。



「さぁ、シロ……服を脱ぎなさい」



「藍…染…なに…?」

翡翠の瞳を大きく開いて、僕が言った言葉を聞き返す。

「聞こえなかった?服を脱げ。って言ったんだ」
「如何…して」
「服を脱いでやる事なんて…聞くまでもないだろう?」
「や…やだっ」

首を大きく振ってイヤイヤを繰り返す日番谷は、藍染の腕から逃れようと必死にもがく。

「さっきも言ったろう?言う事を聞かない子は、嫌いだ。と」

その言葉と共に、ビリッ!布の裂ける音。

「いやっ!!やあっっ!!」

ビリビリと日番谷の叫び声なんて、聞こえていないかの様に。

「君には愛なんて必要無いみたいだから」

乱暴に衣類を剥ぎ取り、暴れたせいで皮膚に擦り傷が出来た。

日番谷の真っ白な肌に藍染の爪痕がくっきりと浮び、ニタリと舌舐め摺り。

「いつも…好きで優しくしてると思ってた?」










どうして…。
ねぇ藍染…、俺は何もしてないよ…。


どうして信じてくれないの?

ねぇ、判んないよ……。





今日の朝、隊主会で決まった現世出立。今回は十番隊と六番隊ですることになり、隊員の教育も兼ねて隊長自らが隊員を連れて討伐へ行く事になった。
東西分かれて現世へと出向き、帰って来たら報告書を纏めて次の隊へ回す。

面倒だけど、仕方の無い任務。

松本が抜粋した隊員を連れて現世へと向い、報告のあった場所へ早々に到着。

いざ討伐となって気付いた事。

この隊員は剣術も満足に扱えない、役立たずだと言う事。斬魄刀の開放すら出来ない平隊員で、虚が纏めて二体出て来ようもんなら、ギャギャーと声を張り上げ助けを呼んだ。
どうしてこの男を選んだのか。確かに鬼道は目を配るものがある。しかし、実践でそれを発揮できないのでは意味が無い。
ようは、教育を施すまでもいかない奴だった訳で。

俺はそいつを無視して、さっさと虚を昇華し尸魂界へと戻って来た。

報告書を九番隊と総隊長へと持って行き、用事も済んだ俺は十番隊執務室に戻ろうと廊下を歩いていた。

「あのっ……!」

そんな時声を掛けられ、正直話す気すらなかったのだけど、隊長が隊員を無視する訳にもいかず。

振り返り、そいつを睨み上げた。

予想通り。
俺の目の前に居たのは、先程一緒に討伐に行ったそいつで。

「なんだ?」
「あの…日番谷隊長にお話が…」
「だから何だよ」
「此処ではちょっと……」

泣きそうな顔で訴えて。ああ、さっきの討伐の事での謝罪かなにかか。そう、勝手に判断した俺はそいつの後ろを付いて行った。



それが…こんな事になるなんて………。





外は日も沈み、薄らと視界が開ける程度。重い雲が月を隠し、広範囲に広がっている。

男の後を黙って付いて行き、各隊舎を越え奥へ奥へ。殺風景な廃屋を抜けた雑木林の先、そこに小さな小川が見えてきた。

「おい…」

結構な距離を歩いたと思う。いい加減面倒になってきた日番谷は、その男に声を掛ける。

「すいません…」

相変わらずの、情けない声。
ふぅ。思わず出た、溜息。

「俺…向いてないですよね」
「あ?」
「今日でお別れです」

意味の判らない事を突然口にする男。理解なんてするつもりは無いけれど。

ジリ…ジリ。
そいつが少しずつ俺の元へと近寄ってきた。

「俺、死神やめます。だから…」

そこで一旦話すのを止めて、暫くの沈黙。

「だから最後にっっっ!」



一瞬、全身に電気が奔った。
最初は何が起きたのか判らず動揺するも、直ぐに鬼道をかけられたのが判った。

迂闊だった。
こいつにそんな事をする度胸があったのか。
面倒臭い奴だと思いながらも、たかが平隊員のかけた鬼道だ、簡単に解ける。

俺は神経を集中させて自由を取り戻そうとした。
が、俺の視界は窮屈さと共に、一気に黒へと変わった。



「テメッふざけるな!離せよっ!」

抱き締められた小さな体。
鬼道をかけられたままでは抵抗すら出来ず。

「ひっ?!やめっ!」

首元を舐め上げられ、鳥肌が立った。
気持ち悪い。気持ち悪い気持ち悪い!
なんとか縛道を解き氷輪丸を掴もうともがいてはみるが、相手も解かれた事に気付き体重を掛けてきた。
後少しで地面へと押し倒されそうな小さな体。



――ヒュンッッ―……。



一瞬、目の前に閃光が奔った。
俺を抱き締めていた男の動きが止まって、掴んでいた手がダラリと落ちる。

不振に思い見上げてみば、そこにあるはずの『それ』が無くて。

ドン。
何かが地に落ちる音。其方へと視線を変えれば、それは紛れも無くその男の首。だくだくと血を流しピクリとも動かない。



ジャリ…。
音の先には人影。

手元には、妖に光る斬魄刀。
ポタリポタリと血を滴らせて。

漸く見えた、その人物の顔。
昼間と同じ穏やかな笑みを見せる、男の顔。

「藍…染…」















「ああっ…あぅ、ん…ひぁっっ!」

グチュグチュ、粘着質な音が耳に届く。

「やめっ……藍染っっ」

少年の縋る様な制止なんてお構いなく、きつく握り締める腕に映るくっきりとした痣。

こんな事して彼を泣かせたい訳では無いのに。恨むべきは目の前に捨ててある、屑となったあの男。判っている……頭では判っているのに、体が言う事を利かない。



翡翠から流れ落ちる涙。
真っ赤に火照った頬を伝い地面へと止まる事無く溢れて、落ちて、また溢れ。

目を見ないように、


僕は彼を犯した。



「そんな事言って…。君の此処はもっと欲しいって吸い付いてくるよ?」
「やっ…」
「ほら…僕の指、三本も咥えちゃって」
「やだっ」

少年は首を左右に振り、力なんて入るわけも無いのに僕を退け様と突っ張る。

「やれやれ。素直じゃないね」

大袈裟に溜息を吐き、地面に押し倒していた体を無理矢理起こす。

「やだっ、藍染っ……いやっっ」

僕のやろうとしている事に気付いたのか、ビクビクと怯えた表情を見せる少年。
これ以上、君を泣かせる事はしたくない。

だけど。
その反面、もっとその顔が見たい。誰でも映すその翡翠が、今は完全に僕だけを見つめ、怯えながらも僕だけを呼ぶ。





独占欲。

それは確実に僕を蝕んでいった。





「いっ…痛っ…やあっ…!」

体を起こした途端、襲い掛かった圧迫感。十分に慣らされもしていないそこへの挿入。

元々、体格差からこのような行為は無理に等しい。それでもこうして出来るようになったのは、藍染が体に教え込んだから。

ゆっくり、ゆっくりと時間を掛け、愛しい彼に負担が掛からないよう。


全ては彼の為に。


「シロ…何時も言ってるだろう?力を抜きなさい」
「ひんっ…あぁっ…でき…ないっ」

性行為なんて何回もしてるけど、彼の意思を無視したこの行為はやはり無理があったらしい。
ギチギチと軋む感覚が僕に伝わり、チラリと顔を覗けば血の気の引いた子供の顔。顔面蒼白、その言葉がピタリと嵌る表情で涙だけが変わらず流れ落ちる。

「動くよ…」
「やだっ…あああぁぁっっ!」

無理矢理腰を固定して、きつく絞まるそこを貫いた。

「あっああっんっ…ひあっっ」

何度も何度も打ち付けて、少しずつだけど少年の顔に快感の印。

「ふぁっ…藍…染っ…ああっ」
「なんだい?」
「気持ち…いいっ…」
「それは良かった」

ホッとしたのは事実。だけど、ただ快楽を与えるのではこんな事をした意味が無い訳で。

必死にしがみ付く日番谷を引き剥がし、再度地面へと寝かし付ける。

「ああっ…はっ…」

先程よりも激しく腰を打ち付けて、蜜を漏らす少年の雄を扱いてやる。

「ぅあっ…だめっ…でちゃ、う」

何時もの限界の知らせ。普段ならそこでいかせてやるんだけど。

「駄目だよ…。いかせない」

その言葉を言い終えて、藍染は地面に落ちている日番谷の腰紐を手に取った。



「これはお仕置きだからね……」



「やぁっっ?!なんで…藍染っ」

快楽に酔い痴れていた表情とは打って変わって、今の彼の顔は酷く苦痛な表情に変わっていた。

「お仕置きだって言っただろう?」
「やだっ、解いてっ」
「駄目だ」

嫌がる日番谷の視線の先、今まで腰に巻いてあったその紐が今は自身の雄に巻き付いていたから。

達する事のできないそこは、ヒクヒクと痙攣し出口まで押し寄せる白濁はチロチロと蜜を溢す。

頭がおかしくなりそうだ。

拒絶を示しても動く事を止めない藍染。痛い位に張詰めたそこは紅く腫れている。

「痛っ…やめっ…お願…いっ…いかせてっっ」
「いやらしい顔だね…。そうだ、彼にも見せてあげなさい」
「ひっ?!いやっっ」

グイッッ。
強制的に体を持ち上げられて、藍染の膝に座ったかと思えば体をくるりと反転させられ。

「いやっ!やだっ!」

今の日番谷の体勢は、落ちた首に向け足を開き藍染のモノを咥えるという惨めな格好。

「彼も喜んでるんじゃないかな…。君のこんな姿が見れて」
「ああっ…あっ…はぅっっ」
「ほら…もっと足開いて」
「いやっ、ああっあああぁっっ」

何度も何度も最奥に打ち付けて、少年の口からはダラダラと涎が落ちる。

「お願っい…おかしくなっちゃうっ…」

既に体全体が痙攣し始めた日番谷。上も下もぐちゃぐちゃにして、そろそろ本気で限界らしい。

「いいよ。一緒にいこう」

その言葉と共に、巻き付けていた紐を解いてやり体制を戻す。ギリギリまで自身を抜き取り、最奥まで貫いた。

「ああああぁぁぁっっ!」

解いた途端、勢いよく放出させる白濁。藍染もまた、少年の中へ自身の欲を流し込んだ。





行為の後、意識を手放した日番谷に死覇装を着せてやり、抱き締める。

「ごめんよ…」

涙で腫れた顔を撫で、無理矢理裂いた死覇装をなぞり。
彼には聞こえない様に、起こさない様に、小さく謝罪。



ふ、と目に付いた小川。
月の光に照らし出された水面。

キラキラと眩く光る。

それは落ちた花びらの様に美しく、風に吹かれて舞上がれ。

この世を二人だけにして。


咲き誇れ。



世界の全てが目覚めぬように。

End


藍染の笑顔は怖い。それだけ。

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