鈴は華やかに、
君と僕を繋ぐ。
音色は鮮やかに、
体中に行き渡る。
「鈴のまじない!?」
「そう♪今、女性死神協会で噂なの!」
銀色の髪を爽やかな五月の風になびかせて、若草よりも深い色をした瞳をいぶかしげに細めたのは、十番隊隊長 日番谷冬獅郎。
廊下で出くわした幼馴染みからそんな話を聞いていた。
「鈴に赤いリボンを結んで好きな人に渡すと、二人は永遠に幸せになれるんだって!!」
素敵よねーとすっかり上の空な幼馴染みを置いて逃げる様にその場を去った。
(何でアイツのこと考えてんだよ!!)
書類片手に廊下を早足で歩いて行けば、擦れ違う隊員達は慌てて頭を下げる。
そんなのも気にしないまま、自分の執務室の前に立つと大きく一回、深呼吸して微かに震える手で執務室の襖を開けた。
「松本のヤロー・・・」
自分が出掛ける前には確かに居た筈の副官は何処かへ去っていた。
後に残ったのは大量の書類。
それと、もう一つ。
「何じゃこりゃ?」
書類に埋もれた自分の机の上に置かれた小さな紙袋。
『隊長へ☆』とムカつく見覚えのある字の書かれたそれを開けて、中身を掌に転がすと、
チリン・・・・・・
小さくとも綺麗な音を立て、白い日番谷の手に転がって来たのは、
「鈴・・・か・・・・・・・・・?」
小さな白銀色の鈴と短い赤いリボンだった。
「綺麗だな・・・」
掌の上に落ちたそれを指の腹で転がしてみると綺麗な音を立ててそれは鳴った。
すると、不意に浮かんで来た人物と幼馴染みがしていた噂と目の前の品が嫌でも重なる。
「ばっ馬鹿!!何であんなヤツの顔が浮かぶんだよ!!!」
蒸気が沸く様な頬を軽く押さえながら叫ぶ。
今の状態を「茹で蛸」と云うのだろう。
「・・・俺は信じねぇからな」
その鈴とリボンを持ったまま荒々しく襖を開けて何処へと向かって走り出した。
五月の柔らかな太陽の光が降り注ぐ静かな部屋。
五月晴れと云うのだろうか、葉桜が風と陽射しに軽やかに揺れている。
その部屋ではただ紙が捲られる音と筆が紙の上を滑る音だけが響いている。
不意にその静寂を破った、控え目な音。
音の発生源を見れば襖の後ろに小さなシルエットが柔らかい陽射しの中に淡く写っている。
その人物が分かると、部屋に居た人物はその客人を招き入れた。
入って来るなりズカズカと歩いてきて目の前で止まると右の掌の拳を開けてそれを差し出した。
不思議に思って、掌を覗くと小さな鈴に小さく赤いリボンを結ばれていた。
「雛森の話を信じた訳じゃねぇが、お前にやる」
目も見ずに真っ赤になりながらぶっきらぼうに言うとそれを無理矢理に相手の掌に掴ませた。
その時に僅かに鈴が音を立てた。
直ぐに帰ろうとする小さな背中を引き止めて、懐から金色の鈴に赤いリボンが付いた物を差し出す。
「くれるのか・・・俺に」
信じられない、と言った表情でこちらを見る。
優しく微笑んでやると両手の掌にその小さなおまじないを乗せて、目を輝かせた。
「ありがとな、藍染」
普段、絶対見れないとびきりの笑顔に幸せを感じた。
「どういたしまして」
外から心地好い五月の風が吹き込んでいた。
オマケ。
日番谷「藍染もこのまじない知ってたのか?」
藍染「雛森くんに聞いてね」
日番谷「へー」
藍染「それより・・・」
日番谷「ん?」
藍染「今夜は寝かせないよ」
日番谷「はぁぁ!?」
藍染「『永遠に幸せになる』んだろう?」
日番谷「(しまった・・・)」
End
管理人的、理想の藍日です。暁杏里様は凄いですね!文才や発想力が。読み終わった後の至福間がたまりません!
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