「あら?冬から来てくれるなんて珍しいなぁ」
部屋の奥へと向かって来たのは十番隊隊長の日番谷冬獅郎。その姿を確認した恋人の市丸ギン。
いつもの狐面を緩ませ弾む様に近付いて来る。
「冬〜っっって……あれっ?!」
後僅かでその小さな体を抱き締めれる!!そんな市丸をヒラリと交わし、その奥に居る人物の名を呼ぶ。
「藍染」
すると市丸の後方で帰ろうと歩いていた藍染は、驚きに少しだけ目を見開いて返事をする。
「君から話し掛けるなんて珍しいな」
「悪い。ちょっといいか?」
「構わないよ」
呼ばれるがまま少年の側へ行き、膝に手を付き屈んでやる。
そんな最中も他の隊長等は集会場から出て行き、この場には三人のみが残った。
ニコニコと満面の笑みの藍染。
何を考えてるのか、真剣な面持ちの日番谷。
自分を無視しての堂々とした浮気に表情の固まる市丸。
部屋の最奥にその三人だけがポツリと残った。
「座って」
「え?」
「そこ、座って」
「??」
促されるまま、少年の足許に跪く大の大人。その光景はまさに異様。
うん。
日番谷は小さく頷くと、自信も藍染の目の前に跪いた。そしてその白く透き通った細腕を伸ばし、藍染を掴む。
徐々に体を近付けて行き……。
ぎゅむっっ。
その、少年にとっては大きな体を抱き締めた。
「ひっ、日番谷君っっ?!」
「冬ーーっっ!!?!」
男の叫び声が二つ、静かな集会場に響き渡った。
時が止まったかのような静寂が続き、ふう、と漏れる溜息が人の存在を確認させる。
「……分かんない」
そう一言。
その後ゆっくりと回した腕を解き、床に尻を付けた日番谷は首を傾げて考え込む。
「冬っ!」
と、
当然の事だが怒りを露にした市丸が少年の側まで駆け寄り。
「市丸っ?!」
力任せにその小さな体を抱え上げた。
見れば、今にも泣き出しそうな市丸の顔。
「冬の阿呆っっ酷いやんっ!!」
ぎゅうぎゅうと抱き締めて、離すものかと深く腕を絡ませる。
「……あったかい」
「…へ?」
「市丸の方が暖かいな」
聞けば、僕の迷惑極まりない幼馴染の乱菊が言った、
『太ってる人は、痩せてる人より体温高いらしいですよ』
の言葉を如何しても確認したかったらしく。
「…それが僕?」
日番谷に抱き付かれてから放心状態の続いていた藍染が目をパチクリ驚きを見せる。
「だって…市丸より体大きくて抱き付かせてくれる人、藍染しか思い浮かばなくて…」
しゅん…。
申し訳無さそうに眼鏡の男を見上げる少年。
その姿さえも酷く可愛く、太っていると言われて実際怒るべきだろう藍染は溜息一つ。
「まあいいさ。君から僕の胸に飛び込んで来てくれたんだ」
そう言って、藍染は日番谷の頭を数回撫でて集会場を出て行った。
「冬……あれは結構キツイで…」
「え?何で??」
「いや…何でって……そら、太ってる言われたら誰でも傷つくやろ?」
「俺は藍染に太ってるなんて一言も言ってないぞ」
「あら、そやっけ?ならええか」
何故かご機嫌な市丸を横目に、日番谷はまた何かを考えながらトテトテと軽快に歩き出した。
End
冬ちゃんは何を言っても許される。もう姫だよ。ディスイズプリンセス。
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