側にいて2



靜霊廷も現世と並び時刻は正午。
昼の時間な事もあり、賑やかしい。

「もう!隊長ったら何時帰ってくるのよ」
「恋次……減給だな」

お互い隊は違うものの、考えることは同じ。現世へと行った二人の、未だ姿を見せない今に憤りを感じている。
しかし、それ以上に怒りに我を忘れた男が一人…。

「なぁ、イヅル。日番谷はんは今日の朝帰る言ってはったんやろ?」
「はあ…」
「おかしいなぁ…もう、昼やで?」
「ええ…」
「子供は直ぐ嘘付くから敵わんわ」
「……」

朝から落ち着きの無いここの隊主、市丸ギン。
氷輪丸なんて目じゃないほど冷え切った霊圧を放出させ、机に座る。
昨日、今週いっぱいの書類を全て終らせてしまったので、やる事が無い。一緒に居る事が無いのに慣れたせいもあり、話題も無い。
さっきから出る言葉といえば、

「腹立つわ〜…二人共帰って来んねんで?別々の用の筈なんに、どっちも帰って来いひん」
「そうですね…」
「はぁ〜、日番谷はん……冬……冬ぅ…」

切れてみたり、泣いてみたり。ぶっちゃけウザイ。やれるもんなら執務室から放り投げてやりたい。其れ位ウザイ。





――ガタタッッッ

「――…」

勢い良く椅子が引かれ音。それに驚き、音のした方へ目をやる。

「あれ…隊長?」

そこには雑に引かれた椅子と、既に冷めたお茶だけが残っていた。居た筈の人は影すらも無い。

「……はぁ」

日番谷隊長のこれからが心配な反面、これで落ち着いてここに居れる事に溜息を吐いた。










「ヤベェッ…もう昼飯の時間じゃん」

寝癖をつけながらも、息を切らして靜霊廷に着いた日番谷。悪いことはしていないのだが、一応ばれない様に雑木林からこんにちわ。急がないと。松本も心配しているだろうから。





「おかえり」

木々を潜り抜けるように走っていたら声が耳に届いた。

「市丸っ?!」

木に寄りかかり、笑顔で此方に手を振る。

「寝癖なんてつけて…それ、討伐でついたん?」
「え…うわっ…本当だ」
「なんや気付かんかったん?」
「……」

視線が冷たい…。

「あ、あのな――あっっっ!?」

突如、日番谷の動きが止まった。
かと思えば、手をばたばたと動かし挙動不審。流石の市丸も不審に眉を顰める。

「あのな、で何や?どないしたん冬…」

タラタラタラ―…滝のような汗が流れ落ちる。

「あ、報告!総隊長に報告行かないと!じゃ、後でな市丸っっ!」

ピュゥゥ〜〜…。
効果音が聞こえてきそうな速さで、日番谷は市丸の前から姿を消した。

「報告ね…」

少年が向っていった方向をただ見つめ、そうポツリ。

「やっぱりや…阿散井はんも帰ってきとる…」

腕を組み、笑顔はそのまま。










「最悪っっ…」

走りながら吐いた言葉。何をそんなに慌てているのか。

「あれを忘れてくるなんてっ」

昨日から今日まで必死になって作った、市丸へのプレゼント。

「阿散井持ってきてくらてるかな…」

喜ぶ顔が見たいのに。
慌てて帰ってきたからだ。やっぱり隈残ってでも帰ってこればよかった。





そうこうしてる間に六番隊舎へと着いた。ゆっくりと襖に手を掛け顔を覗かせる。

「十番隊、日番谷だ。阿散井は居るか?」

反応が無い。キョロキョロ見渡しても人影が無い。

「……六番隊に何用だ?」
「うわっ?!朽木…」

顔だけ中へと入れていた日番谷は、後ろから声を掛けられ慌てて振り返る。

「悪ぃ、阿散井は居るか?」
「あヤツは自室だ。遅刻してきた罰に書類を大量に渡して篭らせた」
「あ…あはは…遅刻……」

笑えない。俺のせいだ…

「じゃ、そっち行ってみるわ。じゃな朽木」

逃げ出すようにその場を離れ、次に着いたは阿散井の自室。

「阿散井…?」

反応が無い。

「おーい…」

やはり無い。










「ここは一番隊舎じゃあらへんよ?」










朽木の時と同様に、後ろから声が掛かった。それは、阿散井とは到底思えない訛りの掛かった声だった。

「市丸っ…」
「えらい驚きようで」
「いや…これにわ訳が――うわっっ?!」

話しの途中だった。突如、目の前は市丸から床へと変わる。目線も高い。

「やだっ!降ろせっっ」

日番谷は市丸の肩に担がれていた。

「うっさい口や。大人しくしぃ」
「っっ〜〜馬鹿っっ」

腰を固定されている事もあり、逃げ出せない。
こいつは怒っている。それは嫌でも判る。だから怖い。

「嘘吐きは大嫌いや」

そう言うと市丸はある場所へと日番谷を連れ込んだ。










ぴちょん、ぴちょん。水滴が落ちる音。
あたり一面、霧掛かった白い世界。そして、蒸している室内。

――ドポーーンッッッ

肩に担がれた日番谷は、その場所へ着くなり放り投げられてしまった。凄まじい水飛沫。

「痛ってぇ〜…何すんだよ馬鹿野郎!!」

放られた場所から顔を出して。死覇装に纏わり付く水分が体を重くする。

「何って…なぁ」
「風呂なんかに連れ込みやがって」
「悪い?」
「しかも何で俺が湯船に投げられないといけないんだっっ」
「他の男と一緒やった体、綺麗にせんと。やろ?」

にっこりと、微笑んで。

「っっ?!」
「あら、覚えがあるん?冗談やったんになぁ」

市丸は浴槽の淵に腕を預け、頬杖をつきながら此方を見ている。その顔が怖くて、俺は湯船の端まで引下がった。

「逃げんといて」
「ひっ――」

お湯の中に手を突っ込み腕を掴まれた。
ゆっくりと寄せられて、市丸の歪んだ笑顔がもう直ぐ其処。
ニタリと不気味に笑いかけられ、俺の頭の中で警笛がなった。”ハヤクニゲロ”と。

「おね…お願い……離してっ」
「なぁ冬……これな〜んだ?」
「な…に…」

俺の目の前に差し出された小さな小瓶。紅く、紅く艶めいた液体がゆらりゆらりと揺れている。

「あれ?分からへん?」

日番谷の脅える表情に満足げな笑顔。

「ああ、そうか…冬、使った事あらへんもんなぁ」

ケタケタ。さも嘲笑うように。

「”媚薬”って知ってはる?」

キュキュッ。コルクの栓が抜かれる音。

「び……やく…?」
「そうや。僕の可愛い可愛い冬が素直になる為に必要なお薬や」

そう言うと、市丸はその小瓶を自らの口へと持っていき口内へと流し込む。喉は動かない。飲まずに、ただ口内へ入れただけ。

「市丸…………ぅんっっ――?!」

突如、頭を摑まれ顔を寄せられた。

とろん……。
深い口付けの最中、半ゼリー状の甘い液体が市丸の口から流し込まれた。何度も何度も角度を変えられて、息苦しさに離れたくても、支えられた手が強くて逃げれない。
市丸の長い舌が日番谷の舌を絡め取る。

「ふ…んっ…ぅんっっ」

限界。
長い間、呼吸のままなら無い状態だった日番谷は、腕をジタバタさせ市丸の背を叩く。
名残惜しそうに重ねた唇は離れていき、漸く呼吸が出来た日番谷は流し込まれた液体を不意に飲み込んでしまった。

「…はぁっ、はっ…」

乱れた呼吸。

「いやらしいなぁ」

ケタケタ。尚も可笑しそうに。

「さ、冬。正直に話してみ」
「何…を…」



「昨日、誰と一緒に現世行きはったん?」



「誰と…って……一人、で…っっ!!」

一人で行った。そう言おうと口を動かしたが、それは直前で止められて。俺の目の前には、真剣な面持ちの市丸。
頬に手を添えられ、真紅の瞳が此方を見据える。

「冬、僕は正直にって言わへんかった?」
「――っ!!」

目が…逸らせない……。

浴槽には熱めの湯が張られ俺の体を温める。
頬は熱さにより桃色となり、額にはじんわりと汗が滲む。
なのに…なのに、何故だろう…鳥肌が止まらない。

「あ…阿散井と……一緒に…」

消えそうな声で、市丸の求めるそれに答える。
だけどそれ以上は言わない。

「一緒に…何してはったん?」

いや、言えない。

「討伐…」

搾り出して、出た言葉がこれ。市丸の眉がピクリと動いた。

「まぁええわ…」

一言、そう呟くと市丸は日番谷を抱え湯船から上がらせた。

「…脱ぎ」
「え…?」
「その格好でずっと居るん?」
「あ…」

湯のある所へ放られたのだから、濡れていて当然。
そもそもは市丸がやった事なのだけど。

「着替えるから…市丸は隊舎で待ってて」

恥ずかしさもあったけど、何よりこの雰囲気を何とかしたかった。
あわよくば、その隙に阿散井の元へ行こうか。なんて。

「着替えるて…変えの服無いやろ??なんに僕、隊舎に戻ってええの?」
「じゃ取って来て…」
「嫌。」

即答。

「乾くまでここに居ろっての?」
「それでええんちゃうん?」
「……良くない」

はぁ。
大袈裟に溜息を付いた日番谷は、袴の裾を絞り、そのまま風呂場を出て行こうとする。





「ああ…あかんなぁ………」





「―――っうわっっっ?!」

引き戸に手を掛けた瞬間だった。力任せに引き寄せられ、日番谷は後方へと倒れこむ。

「……阿散井はんの所へは行かせへんよ」
「……っ」

市丸の膝に乗せられ、後ろから抱えられ、体格差のせいか日番谷はすっぽりとそこに収まっており身動き一つ取れない。

耳元で呟かれたせいか、ドクン、ドクンと鼓動が速さを増す。
のぼせたのか、体が熱い。耳鳴りもする。呼吸も荒い。
市丸が触れてるところ全部に熱が篭る。

「…はっ…はぁ…市、丸…」

分からない…如何したんだ、俺…
体が熱いよ…。

「ん?……あぁ、効いてきたみたいやね」
「なん…か…変…」

その反応を暫く眺めていた市丸は、腹部に当てていた手を下へと持ってゆき、

「やっ…市丸っっ、何?!」

反応無し。
シュルシュルと摺れる音だけが、浴室に響く。
音の元を辿れば、日番谷の腰紐。手を休める事無く、袴を下ろし、羽織を脱がせ…最後は襦袢を取り払った。

「あれ?僕は着替えの手伝いしてただけやのに…感じてもうたん?」
「…っ」

市丸の手に収められた物、それは小さいながらに自己主張をする、日番谷の雄。

「やだっ…体が変なのっ…」
「そら大変やなぁ」

ケタケタと可笑しそうに笑う声ですら、体が反応してしまう。

「あっ…はぁっ…市丸っ」
「なあに?」

意地悪く。時折、包む手に力を込めてゆっくりと、扱きながら。

「いっちゃう…だめぇっっ」

その言葉とほぼ同時に、市丸の手に暖かな何か。見れば、白濁の液。
視線を少年へと変えれば、小刻みに震え、僕の腕にしがみ付いている。

「早いなぁ…もういってもうたん?」
「ご…ごめ…なさっ」
「別にええけど」

ぺろり、指に付いた精液を舐めて、甘い甘い蜜の味を堪能する。

「今日、何回目のなん?」
「へ…?」

予想外の言葉。到底、理解できる訳も無くて。

「なに…如何言う意味…」
「分からへんの?」
「分か…ない」
「あそ」

答えの無い問い掛け。それを理解する前に、新たな衝撃が日番谷を襲う。

「ひぃっっ?!あ、あぁっっ」

既に慣れた感覚。下肢に奔る圧迫感。

「あ、あぁっ…ぅんっ」

グチュリ、水の滴る音。

「美味しそうに銜えるなぁ…。二本じゃ足りひんやろ?」
「あぁっっっ!」

グチャリグチャリ。先程よりも密な音。
既に三本の指を銜えた日番谷の蕾は、市丸の指をヒクヒクと引きずり込むように受け入れる。
雌豹の様な体制の日番谷に覆い被さる狐。少年の口からはダラダラと涎が伝う。

「ほんま、淫乱な子ぉや」





「あっ…はぁっ…やだぁっ」

くちゅり、くちゅり。

「ひゃぁっ…あ…ぅんっ」

くちゅり、くちゅり。
何度もして来た行為だから、この子のいいトコは体が覚える程。鼻に掛かった甘い声は、僕だけの特権。

そう、僕だけの。

「冬…僕の何があかんの?」

快楽に酔う少年へ。

「怒らせたいだけなん?それとも、飽きてもうた?」

自分で言ってて情けなくなってくる。この子が僕を裏切るわけなんて無いのに。
何か理由があって、現世に行った筈。阿散井はんを必要とする用事…



必要…





必要?





僕じゃ、あかんの…?





「いやっ!やぁっっ!」

四つん這いの体制だった日番谷は、市丸の手により仰向けへ。必要以上に足を開かされ、苦痛に顔が歪む。

「も、やめっ」
「なぁ冬、答えてや…僕ん事嫌いなん?」

揺れる翡翠に不安を感じながら、それでも目は逸らさずに問い掛ける。

「すきっ…市丸の事っ…大好きなのっっ」

正直、泣きそうになった。弱くなったな…そんな事を思いながら。
泣きじゃくり、それでもしがみ付いて来るこの子が愛しい。反面、未だ謎の解けないあの事に苛立ちを覚える。

「僕の事好きなら…現世に行った理由教えて?」

その問い掛けを聞いたら、また困った顔をされた。きっと、次に出る言葉は、

「言えないっ…でも俺、市丸を裏切る事なんてしてないっっ」

ほらね、お決まり。それ以上は決して話さない僕の愛しい子。それだけで十分裏切られとるんやけどなぁ…。

「ほんなら体に聞くわ…」
「え…―――ひっ?!?!」

日番谷の声が上擦った。
涙を溜めた翡翠は見開き、口は鯉の様にぱくぱくと。

「っ、キツ」

合図無しの挿入。慣らしたとは言え、慣れない行為。圧迫感なんて、指の比じゃない。
内臓が抉り出されるかと思った。呼吸が出来ない。それでも無理矢理割り進む市丸の雄。
大粒の涙が、唯ひたすら頬を伝った。

「あ、あ、あぁっっ」

律動と同じに出る声。とても喘ぎとは言えないそれ。

「冬っ…」

愛しい少年の唇へキスを…



「嫌ッッ!」










大好きやって言ったやんな……




なんで、




なんでキスを避けるん?










「冬…?」

自身の腕を口に当て、首を横に振る少年。

「冬…」

名を呼んでも返事は無い。

「お願いや…返事して」

お願い、僕から離れないで。

「嫌いっ…こんな市丸っっ大嫌いだっっ」

暗転。
大嫌い?僕の事言うてんの?

「……ふ〜ん……ほなら、嫌いでええわ」

そう言うと市丸は、横に放ってあった腰紐を日番谷の腕へと撒き付け固定した。後ろへ回された腕は、自身の口を覆う事は出来ない。市丸は、頬を固定して貪る様にキスをする。嫌がる少年を無視しての行為。



まるで…強姦。



「あぁっっ…あっ…やぁっ」

この体に刻めばいい。

「んあっ、あぁっ…はっ、はぁっ」

この体が、誰の物なのか。

「ひぃっ…ああぁっ」

一生消えない様に、

「市丸っ…あ、ふぅっ…あぁっっ」

深く、深く、刻めばいい。





媚薬のせいもあってか、日番谷は何度となく精を放った。
しかし、気を失う事無く、ただ耐えるだけの時間。
無理矢理、が正当だと思うこの行為。立ち上がる雄が尚も快楽を求める。

市丸は必要に唇を求めて来た。その時、気付いた事が一つ…

――ポタッ
俺の頬に当る、暖かな雫。風呂の天井に溜まった水蒸気が落ちたのだと思った。でも違う。それは、市丸から落ちた雫。
汗なのかは分からない。だけど酷く胸が締め付けられる。

「ふぁっ、あっ…も…だめっ…」

何度目かの絶頂。

「僕もや…」
「あ、あぁっっっ!!」

二人同時に果てた。中に溜まった市丸の欲が、入りきらずに結合部から溢れ出た。










「……んっ」

体中が軋む。重い。

「ここは…?」

目が覚めた日番谷は、辺りを見渡した。
置かれた家具や装飾品、床の間に収めてある斬魄刀、それはとても見慣れた風景だった。

「市丸の…部屋?」

殆ど毎日通っている市丸の自室。横を見れば眠る市丸。

「そっか……俺…あの後、気ぃ失ったのか…」

眠る恋人を起さないよう、静かに呟く。

「あっ…」

ふと思い出す、大切なこと。

「アイツ…寝てるかな…」

時刻は分からないが、ほんのりと明るくなった景色。もう直ぐ日が昇り始めるだろう。



日番谷はそっと布団から抜け出し、部屋から出て行く。
パタン。静かに襖の閉まる音だけが部屋に響いた。










『市丸…喜んでくれるかな?』

『大丈夫。心配しなくてもきっと喜んで貰えますよ』

『そか。じゃ阿散井、明日は頼むな』

『任せて下さい』










行く最中、ふと頭を過ったあの日の会話。

「ごめんね…市丸」

自然と、足が速くなる。
早く、早く戻りたい。市丸に喜んで貰いたい。





「…阿散井…」

目的の場所へ付いた日番谷は、静かに名を呼ぶ。

「…日番谷隊長っすか?」

返事は直ぐに返ってきた。

「悪い…開けてもいいか?」

どうぞ。その言葉を聞き、襖を引く。

「あの…」
「はい。これっすよね??」
「あ…」

阿散井の手には、日番谷が現世に置き忘れた其れが握り締められていた。

「悪ぃ…」
「いいっすよ」
「…じゃ、俺いくな」
「はい」

軽く手を振り、日番谷は急ぎ足で来た道を戻る。
帰り道、軋むからだが悲鳴を上げて足に力が入らない。ふらふらと覚束ない足取りで、それでも懸命に前へと進む。





と、前に人影。こんな早朝に誰だ…?





「……冬」

俺の名を呼ぶそいつ。

「……市丸」

寝ていた筈なのに…なんで。
驚きに足を止めた日番谷の元へ、一歩、また一歩と近付く恋人。
距離が縮まるにつれ、浮かび上がる顔は悲しそうに俺を見ていた。

「市丸っっ」

痛い筈の体は、もう気にならない。廊下の真ん中で抱き締めあう影二つ。

「…市丸…これ…」

日番谷の小さな手から差し出された真っ赤なそれ。

「なに…?」

きょとんとする市丸を無視して、それを首に巻いてやる。

「あったかいか?その……マフラー…」

市丸の首に巻かれた物。それは、徹夜して作った手作りの真っ赤なマフラー。

「お前…寒がりだろ?だから…」
「……冬が作ってくれたん?」
「一応。下手でごめんな」
「下手やない。めちゃくちゃ暖かいで」
「よかった…」





「あの…」

もじもじと下を向く少年。

「ん?」
「あのさ…俺、市丸の事…大好きだから…」
「冬…」
「嫌いって言って…ごめんな?」
「おおきに…」

触れ合う暖かな口付け。強く抱き締めた体はそれだけで十分温かい。
唇をはなすと、市丸は日番谷の体を抱き上げた。

「部屋に戻ろうな…」
「うん」

二つの影はゆっくりと、吸い込まれるように部屋へと戻って行った。





その日以降、市丸は朽木を髣髴させるマフラー姿で日々を過しているとか何とか。
一方、日番谷は余りの恥かしさに一歩も執務室から出られないらしい。

End


ヘタレな男が好きなんです。

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