私の隊長さん。
大切な大切な隊長さん。

ゆっくりと、休んでくださいね。

静かな時間



「冬ーーーっっ!!」
「おいっやめろっっ!!」

「……」

「愛してるでーーっっ!!」
「抱きつくなっっ!!」

私の可愛い隊長さん。
毎日の様に眉間に皺寄せて、サボる事もせずに書類を片付けて。
頻繁に訪れるあの狐の相手も大変だろうに。

真面目なのはいいけど。たまにはゆっくりサボったらどうです?成長途中の貴方には、伸び伸びと体を伸ばす事も必要ですよ?





「ったく、あのヤロウのせいでまた徹夜かよ」

ブツブツと大きな独り言。私は聞こえないフリをしてさっさと机を片付けて。

「じゃ、隊長〜失礼しまーーす!!」
「ああ」

如何してこんなに優しいのか。私の隊長さんは、自分の仕事を他人に任せるなんて事はしない。まぁ、私が溜めた書類には容赦無いけど。
取り合えず、今日は甘えて帰ります。でも明日は貴方の為に、何時もより少しだけ真面目に執務をします。

と言う訳で、私は足取りも軽く執務室を出て行った。





そして次の日。
相変わらずの狐が登場。

また次の日。
飽きもせずに狐が登場。



「あーーーもうっ!!市丸のせいでまた残業だーーー!!!!」

隊長の雄叫びは毎日の日課の様になっていた。微かに隈が出来ているのは気のせいか。

「……手伝いましょうか?」

さすがに可哀想なので、茶を替えつつも問い掛ける。

「いや…これは俺の責任だから。お前は帰っていい」
「でも…」
「大丈夫だ。其れより明日は遅刻しないようにさっさと寝てくれ」
「うっ……」

あいたぁ〜。痛い所を衝かれてしまった。そう言われると素直に従うしかないって言うか。
で、結局私はまた隊長をひとり置いて部屋を離れて行った。





「松本…書類を届けに行ってくる」
「私が行きましょうか?」
「いや…総隊長に手渡ししないといけないから」
「そうですか。ではいってらっしゃい」

あれから何日も何日も経っていて、今は午前中。昼過ぎにはあの狐が入り浸るから。そう言って隊長は慌てながらも書類整理。で、纏まったそれを総隊長に持って行く。
襖に向かうその背中が弱々しくて、ついつい心配の目を向けてしまった。



「全く、ギンは隊長の事大切に思ってんのかしら」

残業で疲れ果ててるあの顔を見ても執務の邪魔をする。ほんと疑いたくなってしまう。一日だけでも我慢すれば、隊長は多少は楽になるのに。

「馬鹿ギンめっ」

怒り半分。
私は珍しく隊長の帰りを待つ序でに書類整理を始めた。





「……遅い…わよね?」

時計を見れば既に正午を回っていた。隊長が執務室を離れてから大分時間が経つ。

「まさか…過労がたたって倒れてるとか…」

ふと、あの背中が頭を過ぎる。



ガタタッ!大きな音を立て、椅子が引かれた。
瞬く間に、十番隊執務室は蛻の殻。誰も居なくなった此処は酷い位に静かだった。



「隊ー長ーーー!!」

口許に手を添え、大きな声で名を叫ぶ。頭を埋め尽くすのは、一人小さく倒れる隊長の姿。

っっ可愛い!!!!!

じゃなくて!早く探さないと。そして私の豊満な胸で癒してあげよう。
そんな事を考えながら、松本は走る。辺りをキョロキョロ、下を重点的に探す。

「乱菊さんっ」

小走りで走る私を呼ぶ馴染みの声。

「吉良?!」
「市丸隊長見ませんでした??」
「見てないわよ?其れより、私の隊長見なかった?」
「いえ見てません…」

と。
その会話を互いが聞いて、ああなるほど。二人は一緒に居るな。そう理解した二人。
だけど、もしもの事を考えて、取り合えずお互いの隊長を探すべく歩き出した。





「先程市丸隊長の自室には行ってみたんですけど…」

吉良は顎に手を置き、考える。

「これだけ探しても居ないって事は…外かしら?」
「外?」

丁度、今は正午で日差しがとても暖かい。

「あそこ、行ってみる?」
「あそこって?」
「前に一度だけ、二人で居たのを見た事があるの」

ニンマリ。
二人は顔を合わせ、外へと出て行った。



「……やっぱり」

そこは、建物の影にならない屋根の上。それより高く立てられた建物の壁に背を持たれかける狐の姿。
此方に気付いてないのか、ビクリとも動かない。

「隊長は居ないみたいね…」

後ろからゆっくりと、気付かれない様に近付き。
ここから見えるのは完全に市丸一人。

「眠ってる??」

下を向いて動かない市丸。其れを確認した二人は顔を見合わせ口角を吊り上げる。

「見ちゃう?」
「え??」
「寝顔。覗いちゃお!!」

松本は足音を消し、市丸の後方へ。

「あ…」

後ろから覗き込もうと体を曲げた時、動きがピタリと止まった。

「乱菊さん?どうしたんですか」

隊長起きてたのかな?そんな事を思いながら、吉良は松本の側へ。

「あ…」

結局は、松本と同じ反応を見せる吉良。



二人の視線の先。

「隊長見つけた」
「気持ちよさそうですね…」
「疲れが溜まってたみたいだし」

市丸の膝に座る日番谷。其れを大切そうに抱き締める市丸。
ぽかぽかと降り注ぐ太陽の光の中、二人は気持ち良さそうに眠っていた。





「…帰りますか」
「ふふ。そうね」

先程よりも更に慎重に、松本と吉良は二人を起こさない様に屋根から降りて行った。

End


関係無いけど、松本は隊長に従順な人だと思う。ほんと関係無いけど。

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