俺の名前は阿散井恋次。
護廷十三隊の六番隊副隊長だ。
自分で言うのも何だけど、結構腕は立つと思う。
女にだってモテル。部下に慕われ、申し分無い死神ライフを営んでいる。
たった一つの不満を除いて。
「あ!日番谷隊長おはようございます!!」
「おはよ」
廊下で出会った俺の半分も無い小さな少年は背中に十の字を背負いトテトテと歩く。
可愛いなぁ。そんな事を考えながら後を追って。
「一人っすか?」
「見てわかんねーのか?」
「どこ行くんすか?」
「お前には関係ない」
うひょー。今日も変わらずつれないぜっ!!そこがまた可愛いんだけどさーー!!
と、まぁ。お気付きだと思うが、俺はこの隊長にホの字な訳で。
さっき言った、たった一つの不満、それはこの隊長が俺の気持ちにちっとも気付いてくれないと言う事。
場所は変わって。
ここは六番隊執務室。
左を見れば、しかめっ面の隊長殿が執務の真っ最中で。トントンと小気味良く聞こえる判子の音がやけに響く。
元々会話なんてある訳も無く…ってか、全体的に無口な隊長多すぎないか??京楽隊長と浮竹隊長以外あんま口開いてんの見た事ねーよ。
無言実行も良いんだろうけど。
俺的には有言実行のがカッコいいと思う。
だって、気付かれるのを待つ。なんて面倒臭いだろ?
「朽木隊長、書類届けに行ってきます」
そう言って、高く積みあがった紙の束を抱えて部屋を出た。
「あははっ――」
誰かの笑い声。
辺りはガヤガヤと騒がしいのに、其れだけがやけに耳に響いた。
「日番谷隊長?」
其れは、子供特有のすこしばかり高めの声。いつもはこれでもかと言うほど低い声を出しているのに。
今回は、特定するには聞き慣れない音域だった。
足早に廊下の角を曲がれば、見えて来るであろう人を目指し、出来るだけ足音を消して。
何故だか判らないけど、日番谷隊長に纏わり付く霊圧が俺にそうさせている。
直ぐそこが曲がり角。
「――っっ?!」
一歩足を踏み出して見れば、そこには案の定、日番谷隊長と…。
「市丸…隊長」
三番隊舎の前で、壁に寄り掛かって話す市丸と、腕を組み満面の笑みで話す日番谷の姿。
俺の存在に気付いたのか、市丸隊長が此方へと顔を向けた。
「あれ?阿散井はん。どないしたん?」
ニヤニヤとお馴染みの笑顔を俺に向けて。
「別に…何でもないっす」
「そ。でなぁ日番谷はん、この後が面白いんや」
市丸隊長は、俺を無視して会話を再開しだした。子供の様な笑顔を振りまく日番谷隊長。
俺は毎日の様に隊長と会ってるのに。一度もそんな顔、見た事がない。
俺にも…笑い掛けてほしい。
いや、俺だけに笑い掛けてほしい。
「――おいっっ!!阿散井っ?!」
名を呼ばれるまで気付かなかった。俺は無意識に日番谷隊長の腕を掴み歩いていた。
それでもその腕を離そうとは思わない。何処までも連れてって、誰にも見つかる事の無い場所へ。
「阿散井っ!」
バッ!!大きく腕を振り下ろされ、反動で手が離れてしまった。
「俺はアンタが好きだ…」
先程からイライラが収まらなくて。これは嫉妬と言うものなのか。
恋人でもなんでもないアンタに対しての。
「何だよ突然…」
唐突な告白に、当然の様に戸惑う日番谷。そんな事お構い無しに、阿散井は話を続ける。
「返事なんて聞く気は無いっす」
「おい…」
「だけど忘れないで下さい」
今は想うだけ。
だけど…
「何時の日かアンタを俺に振り向かせる」
サワサワ。光を浴びた暖かな風が二人の間を駆け抜ける。
微妙な沈黙が過ぎて、日番谷の口が何か言いたげに開いた。
「何も言わないで下さい!俺、帰ります!!」
話す暇を与えずに、物凄い勢いで、阿散井は帰っていった。
一人取り残された日番谷はポカン。と、口を開けて。そこには僅かな笑みが覗く。
「……ったく。人の話も聞かないで…俺の意見は無視か」
可笑しそうに微笑んで。
「何時かなんて言うなよ…馬鹿」
End
実は両想いだった二人でしたvv
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