訳も判らず決定され焦る日番谷を無視して、阿散井の鼻息は異様に荒い。
「冬…如何言う事?」
やっと口を開いた市丸の表情は引き攣っている。当たり前の事だろう、恋人を目の前で奪います宣言をされたのだから。
「知らねーよ!おい阿散井、お前は何を言ってるんだ?」
市丸の視線に脅えながら、日番谷は必死に問い掛ける。
「えっ、隊長酷いっす!昨日の告白忘れたんすか?」
「告白?!」
「そっすよ。昨日六番隊に来た時、俺に言ったじゃないっすか」
「えぇ?!」
思い出せない。
昨日、六番隊に書類を持って言ったのは事実だし、阿散井とも談笑もした。だけど、告白したとか言われる台詞を吐いた覚えは無い。
「冬…この場で犯すで?」
「――っ」
突如、市丸が屈み込み日番谷の耳元で呟く。恐怖の余り、目を見れないまま下を向いて。
「なぁ、阿散井はん。日番谷はんは君に何て告白したん?」
「それはですね…」
『阿散井…またサボりか?』
『違うッすよ。休憩です』
『一緒だろうが!』
『まぁまぁ。如何です?隊長も一
緒に鯛焼き食べます?』
『…うん』
『俺、隊長が好きなんです』
『一緒だな。俺も好きだぞ』
『マジッすか?!?!』
『あ、あぁ…?』
思い出しながら、阿散井の崩れた笑顔は一向に直らない。
聞かされた市丸は、眉間の皺をいっそう深くして横に着く恋人を睨みつける。
「日番谷はん、確かに告白してはるなぁ」
怒りに震えながらも冷静を装い、呆然と立っている少年に語りかけ。
「あぁ、あれか……うん、確かに言ったぞ。そうだ思い出した」
下を向いて焦っていると思ったのに、顔を上げた日番谷の表情は晴れ晴れと明るいものになっていた。そして、ポンッと手を打ち何やら可笑しそうに笑い出した。
「日番谷はん本気で言っとるん?」
「ですよね!」
両極端な男二人の表情。それを交互に見比べて、日番谷はまた一人クスクスと笑い出す。
「悪かった。俺の聞き違えだ」
「は?」
想像もしなかった言葉に、大衆の面前で間抜け面を披露する男共。
「『俺、隊長が好き』ってのを『これ、隊長が好き』って聞き違えたんだ。てっきり朽木と嗜好が合うんだと思ってた」
「なッッ?!?」
成る程〜と一人感心しながら、日番谷は唐揚げ定食を注文しさっさと席へ着いてしまった。
「……ご愁傷様」
「はは…あははははっ」
そう一言残し、市丸も満面の笑顔で日番谷の横へと着いた。
「勘違い?上等だ!今度は本当に日番谷隊長から告白させてみせる!」
脱力する己を奮い立たせ、阿散井は雄叫びと共に食堂を離れていった。
そして、阿散井の決心などこれっぽっちも耳に届いていない二人は仲良く昼食を食べ、愛を深めたのであった。
End
聞き間違えって誰にでもありますよね。
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