「……珍しいな」
「君こそ」
満月が煌々と照らす、今は真夜中。外は風の抜ける音だけがする、静かな時。
雑木林の少し奥に堂々とその存在を示す、一本桜。少し暖かさを感じさせる風に揺られ、花弁を散らす。
そこに羽織を纏った少年が一人、一点を見詰め歩いてきた。目的はたった一つ、大きな幹の下、同じ羽織を靡かせた男の元へ。
声を掛ければ直ぐに返事が返ってきて、そのまま横に着いて視線を外す。男も同じく、視線を外し月を見上げる。
「こんな遅くにお散歩?」
「…寝れないんだ」
「そら大変やね」
適当な受け答え。それでも何故か、心地が良い。
この空間は酷く自分を落ち着かせてくれる。
「……市丸?」
目を開ければ、横にいた筈の市丸が居なくて。探す様に顔を動かせば、背中に感じる暖かな温もり。そのまま後ろから抱き締められ、首筋にキス。
「こんな事して……吉良はどうしたんだ」
「ん?寝とるよ」
安心して。
彼はそう言って、更にキス。
胸が締め付けられた。だって、お前はあいつしか見ていない事知っていたから。
「んっ…はっ……」
下肢を露に、向き合った体制で男に跨る子供は、肩に頭を預けて声を出すのを堪えていた。
「…我慢せんでええよ。声出し」
その言葉に、イヤイヤと首を横に振る。クチュリと中を荒していた指が音をたて増えた。
それでも出そうな喘ぎを我慢して、少年はポロポロと大粒の涙を溢す。
「…初めてやった?」
優しい問い掛けに、言葉を出さずに首を振った。良かった、彼はそう一言安著の息を吐く。そして更に激しく中を荒した。
初めてではない。
それは事実。
でも、嘘。
想う人との関係は、これが始めて。
でも言えない。彼には大切な人が居るから。それを知っているから言わない。
「…ええ?」
挿入の合図に俺は黙って頷いた。
「んんっ…っっ……!」
口に手を当て声を堪える。
挿入の圧迫感が苦しくて、出せない想いが苦しくて、少年の頬を止め処無く涙が零れ落ちる。
「…邪魔や」
すると腰を支えていた男の手が一本、口許に当てた俺の手を外させた。
「ふあっ?!…やぁっ……!」
声を出したのを合図に動かす腰を深くしてきた。
「ああっ…あぅっ」
律動に合わせて自然と少年の腰が動く。
「結構、淫乱さんなんやね。誰にでもこうなん?」
「ち…ちがっ……んああぁっ…!」
肌と肌が擦れて、熱を持つ。それさえも感じてしまって、まともな返答なんて出来なかった。
「はっ、あっ……いち…まるっ」
どうしてこんな事するの?
貴方には『大切な人』居るんでしょ?
ほんと、止めてほしい。俺は餓鬼で、直ぐに勘違いするから。
市丸は俺の事、想っていてくれてる。
そんな勘違い。
「……御免なぁ」
俺の耳元に口を添えて市丸が発した一言。言葉の意味なんて、聞きたくも無いけど、だけど確実に俺の心は砕けていった。
「あっ、ああっ…」
何度も何度も打ち付けて。
「ひぁっ…あぅっ…ああっ…!」
快楽に酔いしれた体は、必要以上に欲を求める。
市丸は幹を背にした体制を反転し、少年を寝かせ、上に被さる。
一旦、包み込むように抱き締めて。
「ああぁぁっ…!」
今まで以上に足を開かせ、中を犯した。
サァ……――。
生温い風が二人の間を抜ける。後を追う様に、桜の花弁がヒラリヒラリと舞い落ちた。
「……ええ匂い。これは君の香り?それとも桜?」
ニタリと自分の下で喘ぐ少年を見下ろして、汗と涙でグショグショの顔を舐め上げた。
顔を上げて冷静に少年を見詰めれば、着物の割れ目から覗く純白の肌が少し汗ばみ紅掛かっていた。それが酷く妖艶さを強調させて興奮を覚える。
地面一杯に広がる桜の花弁。
彼の肌はとても白く透通り、桃色の絨毯に吸い込まれてしまう、そんな錯覚に陥って。その姿は酷く美しく市丸の目に映った。
「綺麗や…」
無意識に出た言葉。少年には聞こえていなかったらしく、胸を撫で下ろす。
「あっあっ…市丸っ…」
「ん?」
「も…だめっ…」
やっとの事で言っているのであろう、呂律が回らないのと同時に下の口が激しく痙攣し始めて。
「…イキたいん?」
コクコクと、少年は何度も何度も頷いた。
「僕も限界や。……中に出してええ?」
再度、小さな喘ぎを交えながらも頷く。
肌の距離を縮めて、すると少年の腕が市丸の背へと回された。
「あっ、あああぁぁっっ…!!」
呆気なく精を放ち、腕を地面へと落とす。市丸も同時に中へと欲を吐き出し、自身のそれを抜いた。
サワサワ…――。
火照った体を癒す風。桜吹雪も勢いを増してきた。
「……市丸」
身嗜みを整えた日番谷が、下を向いたまま名を呼んだ。
「ん?」
覗き込むように返事を返す市丸。
一瞬だけ目が合った。
が、直ぐに反らされ。
「……どうして……」
そう一言、だけど返事は直ぐに返ってきた。
「判らへん…」
たったそれだけの言葉だったけど、市丸の中に俺の居場所が無い事だけは理解した。
貴方は今から愛しい彼の眠る部屋へと戻るだろう。そして、その大きな腕で抱き締めて、俺には判らない笑顔を見せるに違いない。
御免ね…。
ほんとお前は優しいから。
俺の気持ち、判ってたんだろ?もう二度とこんな顔しないから。
今宵だけ
貴方を感じさせて。
End
市←日風に見せかけて、実は市→←日
吉良を裏切る行為に、ギンちゃん苦しんでます。
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