優しく強い貴方に恋をした。
真っ直ぐな君に恋をした。

どうか、この想いが消えませんように。

恋の病



靜霊廷に天気という物は基本的に無い。唯一人この変わらない天気を自由に扱える者、氷雪系最強の斬魄刀を持つ十番隊隊長・日番谷冬獅郎。
空は昼間だと言うのに黒い雲が立ち込め今にも泣き出しそうだ。きっと彼の気分がそうさせているに違いない。

「お前を信じた俺が馬鹿だった」
「…なんやの?なんでそんな事言うん?」

開口一発目に何を言うのかと思えば、

「自分が何したかもわからねーのか?」
「僕は何もしてへん」

意味が分からない。何をそんなに怒っているのやら。

「…あーそーかよ!じゃ、やっぱり俺一人で勘違いしてたんだな」

悪かったな!そう、一言告げると日番谷は自室へと戻っていった。

「…冬」

一体如何したというのか。ただ冬に会いたくて、何時も通り十番隊に遊びに来ただけ。そしたら、何時も以上に不機嫌な冬が居って、乱菊は僕の顔見るなりそそくさと出てくし。

「僕…何かしたんやろか…」

訳も分からず、一人取り残された市丸はポリポリと頭を掻きながら隊舎を後にした。










「…ハァ、馬鹿だな俺」

飛び出したは良いが、行く当ても無い日番谷はフラフラと廊下を歩く。

「如何されたんすか?」

突如、上から掛かる声。

「阿散井…」
「一人で考え事ッすか?」
「いや…」

答えれる訳がない。

「じゃ、お茶しません?」
「……へ?」
「直ぐそこにいい店出来たんすよ!俺、一度行ってみたくてww」
「でも…」
「俺の奢りッすよ!!さぁ、遠慮せず」
「いや、そうじゃなくて…」

阿散井は日番谷の話を聞かず腕を掴み、半強制で引き摺って行った。



「おい!離せ!!歩き辛い…」
「あ…スンマセン」

真昼間からの死神の出歩きは唯でさえ目立つのに、腕を掴まれ歩いていたら尚更目立つ。

「ここッす」
「…へ〜、こんなの何時の間に建ったんだよ」
「本当、最近らしいですよ。俺も昨日聞いたばっかなんすケド」
「ふ〜ん」

まじまじと外観を眺める大きな翡翠。と、阿散井が突如しゃがみ込み、

「ここ…最近流行のデートスポットらしいっすよ」
「……ッ」

耳元で囁かれ、つい体を震わす。

「はは、可愛いッすね隊長」
「からかうな!!」

そこそこじゃれた所で、漸く店の中へと二人は足を進めた。
ふと、店の奥に良く知る背中が…

「市丸…?」

隊長服を着ず、死覇装だけを身に纏った市丸の姿がそこにあった。

「…どうしたんすか?」

突如動きが止まった日番谷を不審に思い阿散井が問う。

「え…いや…」
「そっすか?」

目線が定まってない。動揺が霊圧に現れたのか、今まで背を向けていた市丸がゆっくりと振り返る。

「冬?!」
「あ…市丸隊長」
「…阿散井はんまで」

市丸の目の色が変わった。が、そんな事よりも日番谷の目を射止めて離さない者。
長い黒髪を一つに纏めた色白の綺麗な女性。

「ねぇ、あの子ギンちゃんの知り合い?」

その女性が市丸の名を親しげに呼ぶ。

「…その人、誰……」

極小さな声で。

「え?」

日番谷が何を言ったのか聞き取れない。ただそれだけの理由で聞き返した。
本当にそれだけ…

「……やっぱり嘘吐きだったんだな」

小さな拳を握り締めそう一言告げると、日番谷は店を飛び出していってしまった。

「冬!!」
「日番谷隊長!!」

阿散井はすかさず追いかける。市丸は急展開に付いて行けず、取り残されてしまった。










「待って下さい、日番谷隊長!!」

瞬歩を使って走る日番谷を、阿散井は必死に追いかける。
今、日番谷隊長を一人にするわけにはいかない。

「隊長!!」
「…っ、離せ!!」

漸く捕まえた。阿散井は日番谷の手首を強く握り締める。
日番谷は手を振り払おうと必死にもがき、その姿は駄々を捏ねる子供の様に意地らしく映った。

「離してもいいですけど…逃げは無しっすよ?」
「何でだよ?!お前には関係無いだろ!」
「関係あります。俺、隊長とお茶する約束しましたもん」
「それは今度する……だからもう一人にしてくれ」
「駄、目、で、す。約束は守ってください」

今にも泣き出しそうな顔。その顔の意味は良く分かる。
霊圧を消してまでの密会、市丸隊長の明らかな浮気。
とても綺麗な女性だった。

「お願い…離して」
「……隊長、泣いても良いッすよ?」
「え…」
「泣いて、スッキリして、んで、市丸隊長に会って、ぶん殴る!!」
「阿散井…」

阿散井の唐突な発言に、翡翠の瞳が小刻みに揺れる。

「泣きたい時は泣きましょう!!その方が人生楽っす」

子供の様な笑顔。
朝は曇り空だった。いつの間にか雲の割れ目から眩しい光。その光は優しく二人を包み込んで。

「馬鹿…人生を知ったような事言うな」
「へへ…まぁ、いいじゃないっすか」

阿散井はそっと掴む腕を解いた。日番谷は立ち去ろうとはせず、ただ真っ直ぐに阿散井を見詰め佇んでいる。
突然、日番谷の顔は真剣なものへと切り替わった。

「松本が言ってたんだ…」
「……何をっすか?」
「市丸が浮気をしている……って」
「……そうなんすか」
「悪いな…こんな事言って」
「いえ……」

最初から知っていたのか。あぁ、だから廊下で見かけた時あんな顔してたんだ。

「別に良いんだけどな…市丸が女と一緒にいたって」
「……」

返事の仕様が無い。答える言葉を模索するも、見つからない。

「男同士で恋だの何だのってのが成立するとか思ってねーし」
「日番谷隊長…」

顔…笑ってないっすよ……アンタ本当は辛いんでしょ?

「馬鹿だな俺…何お前に愚痴ってんだろ」

素直になればいいのに。強がりは自分を傷付けるだけ。

「日番谷隊長…」

もう一度、名を呼ばれ真っ直ぐに阿散井を見上げると、

「え…ちょっ、おい、阿散井何す…」
「少し黙って下さい」

阿散井の腕の中には、僅かな抵抗を示す小さな少年が納まっていた。






「冬…何処行ったんやろ」

日番谷が飛び出した後、市丸も慌てて後を追ったのだが、店を出た時には影も無く、自分の勘を頼りに恋人の姿を探すしかなかった。

「冬、泣きそうな顔しとった…やっぱ勘違いしたやろか」

いや…そんなはずは無い。僕達の関係はそんな浅いもんじゃない。市丸は自問自答をしながらも愛しいあの子を早く見つけるべく、必死に走る。

暫くして、漸く日番谷の霊圧を見つけ出した。市丸は瞬歩を使いその場へ急ぐ。が、目にした光景に思わず息を呑む。

「何でや…冬」

市丸の目の前には日番谷を抱き締める阿散井と、それに応えるかの様に腕を回す日番谷の姿。










「今日は悪かったな…」
「いえ、俺は日番谷隊長と一緒に居れただけで満足ッす」

そろそろ日も暮れるという時刻、阿散井と日番谷は十番隊者の外庭に来ていた。

「じゃ、俺戻るな…」
「はい。また近々呑みに行きましょうね」
「ああ」

そう言って、二人は別々の方向へ歩いて行く。
日番谷は、一旦執務室に戻ろうと歩を進めた。

「松本…ちゃんと書類に目ぇ通してっかな…」

正直、今は市丸の事を考えたくない。日番谷は気を紛わすかの様に独り言をブツブツ告げ、歩く。歩く。と、

「お帰り、冬。遅かったなぁ…今まで何してはったん?」
「!!」

何時から居たんだ…全く気配を感じなかった。

「なぁ、何してたん?阿散井はんとえらい仲良ぉ話しとったみたいやけど」
「…俺が何しようとお前には関係ないだろ?」

驚きを隠すように、動揺を見抜かれないように、真っ直ぐと市丸を睨み上げる。

「へぇ…よう言い張りますなぁ」
「テメーこそ、俺に言う事有んじゃねーの?」

口角を吊り上げ、優勢に立ったつもりなのか。日番谷は引く事をせずに、寧ろ仰け反る勢いで言葉を返す。

「僕?僕は何もしてへんよ?」
「あっそ。じゃ、話しな終いだ。俺は帰る」

襟を返し、市丸に背を向けて。

―――ポタリ。

歩く日番谷の足元に雫が落ちた。良く見れば、それは自分の眸から落ちた惨めな涙で。










外は完全な夜へと表情を変えていた。ジメジメとした空気が日番谷の体に纏わり付く。

「……ぅぐっ…市…丸……」

ここは十番隊隊主室。その部屋からは、滅多に聞こえない啜り泣く声。

「市丸…や…だよ…」

枕に顔を埋めて、声が外へ漏れない様に極小さな声で、日番谷は一人で泣いていた。一人、この部屋で、誰にも聞かれないように泣いていた…のに、
突如、体が宙に浮いた。

「えっっ?!」

突然の出来事で頭が上手く付いていかない。恐怖に思わず愛しい人の名を呼ぶ。


「やだっ…助け…市丸っ!!!」


「どないした?冬…」


会いたかった人の声が自分の真上から聞こえた。

「市…丸…?」

見上げれば、何時も通りの優しい笑みを浮かべた市丸が自分を抱き上げていた。

「何…で……」
「冬が呼んだから…」
「違っ…お前なんか呼んでない!!」
「あぁ、また素直や無い冬に戻ってしもた…」

腰を抱え持ち上げていた体制をくるりと変え、赤子を抱き上げるような体制で再度、抱き締められる。

「冬…僕の腕の中は暖かい?」

確かめるように、そっと優しく問い掛けて。

「……うん」
「僕は今の冬を抱き締めても、ちっとも暖かくあらへん…」
「え…」

肩に顔を埋めていた日番谷は、市丸の声の変化にすぐさま顔を上げた。見れば、市丸は至極辛そうな表情をしている。

「冬は僕の物なんに……裏切られてしもた……」
「…市丸?」

部屋の空気が一気に冷めていく。

「僕には冬だけなんに…許せへんなぁ…」

今まで優しく抱き締めていた腕に力が篭り。

「痛っ…市丸…やだ、降ろせ」

ハッキリ言って、今の俺は恐怖に顔が歪んでいる。怖い。

「なぁ、如何したら冬は僕を見てくれるん?」

ギチギチと、骨が折れるのではないかと思うほど強く抱き締められて。

「放せって言ってんだろ!!」

必死な形相の日番谷を、市丸は可笑しそうに見つめていた。

「別に放したってええけど…」
「え……うわっっ?!」

腕を突如放され、日番谷はそのまま床へと叩き付けられた。

「…ってぇ…」
「あら、痛かった?ごめんなぁ…」
「…っ」

悪びれた感じも無く、未だ市丸は笑っている。

「なぁ、冬、怒ってはるの?」
「ふざけんなっ…テメー何考えてんだよ!!」
「悪い子にはお仕置きせな…やろ?」
「な…に…?」

市丸の目が僅かに開いた。それは恐ろしい程に透き通った赤色で。

「せやから、冬は僕の物だって体に教え込まないかんねや…」

怖い…早く逃げないと。日番谷は後ろへと後退りをするが、すぐさま市丸に足首を掴まれ引き戻される。

「逃げたらあかんやん」
「や…やだっ」

日番谷の瞳からは、先程とは違う涙が溢れ出す。

「そうやって阿散井はんを誘惑したん?」
「何…で…」

市丸の顔が近づく。

「ククッ…僕が怖いん?」
「い…市丸………ぅんっっ」

市丸は噛み付く様に日番谷の唇を奪った。

「ぅうっん…やぁっ……ふぅっ」

何度も何度も舌を絡ませ深く吸い取る。日番谷の口からは飲み込みきれなかった唾液が溢れ出た。

「はっ…ぅあっ、やぁっ…市丸…」
「何が嫌なん?此処こんなんにして…」
「!!」

市丸の手が日番谷の下腹部へとあてがわれ。

「違っ…」
「違う事あらへんやん」

置いてあっただけのその手は、ゆっくりと小さいながらも反り立った雄を袴の上から扱き始めた。

「あぁっ…あっ、やだぁっっ」
「体は正直やで?もっと欲しいって腰動いてるやん」
「お願い…止めて…」

扱きを止めないその手を、日番谷は剥そうと必死に抵抗する。

「…邪魔やなぁ」
「いやっっ」

市丸は邪魔な両腕を片手で掴み、日番谷の腰紐を外すと、くるりと体をうつ伏せにさせて素早く結び付けてしまった。

「ククッ…ええ眺め」
「外せ!!嫌だ!!」

未だ抵抗を止めない…

「はぁ〜。よう喋る口や…その口も塞いでまうよ?」
「……っ」

咄嗟に口を閉じる。

「ククッ…嘘やよ。冬のええ声聞けへんの、僕が嫌やもん」
「?!」
「さぁ…お仕置き、始めよか……」



何でこんな事に……。元はと言えば、市丸が浮気をするから……。
何で俺が裏切ったって言われないといけないんだ。なんで怒りを俺に向けるのか。それなのに、市丸はどうしてそんな悲しい顔をしているのか。
泣きたいのはこっちだってのに…。



ぐちゅぐちゅと生温い音が部屋に響き渡る。

「はぁっ…う…んぁっ」

日番谷は既に全てを脱ぎ捨てられ、全身を市丸に曝け出している状態で。

「うぁっ、やっ…あぁっ」

市丸は全身をくまなく舐め上げる。勿論、扱く手は休めずに。

「市丸…もっ…出…」

日番谷が絶頂に達する時の何時もの合図。

「駄〜目」
「んあっ…」

今まで扱いていた手を止め、強く握り締める。

「嫌っ…何で…」
「これでいってもうたらお仕置きの意味無いやん」

頭が朦朧としてきた…もう、何も考えれない。




許さない。許さない。

誰を?


そんなの冬に決まっとる。


決まっとる?

本当に?




否、本当は僕自身を、や






「ひぃっっ」

突如、日番谷は痛みに顔を歪める。

「やっぱ、慣らさんときっついなぁ…」
「あ…ああ…っっ」

市丸は何時もの様には慣らしもせず、無理やりに自身を突き刺す。だが、先走りの液が多少の潤滑作用になったらしく、日番谷の蕾は切れる事無く市丸を受け入れた。

「っふあっ…ぁあっ…痛っっ」
「ほら、もっと足開き…」

両足を無理に開かせて。

「あああっっ」

余りの痛さに顔面蒼白の日番谷は、しかし、必死に何かを訴えようと口を動かす。

「いち…ま…大好…き、だから…他の人と一緒に居ちゃ…やだ…」

判ってた。冬が僕を裏切る訳がないなんて。
でも止まらへんかった。傷つけた後に思い出すなんて…

「冬…今なんて…?」
「ひっく…うぅっ…」

泣きすぎて呼吸が定まらない。

「冬…」

市丸は泣き崩れる日番谷を包む様に抱き上げて、そして腕の紐を解き、泣き止むようにと願いを込めながら、優しく背中を摩ってやった。

「……市丸が好きだから…嫌だ…こんなの」
「僕が好きって……ほんま?」
「なんでっ…嘘付かなくちゃいけないんだ…」

紐を解いた手は赤く腫れあがり、くっきりと痕が残っていた。その手を取り、ぺろりと舐めて。

「……っ」
「ごめんな…また冬を傷付けてしもた」

泣きそうになった。いや、泣いてるのかもしれない。段々と心に開いた穴が埋まっていく。

「…阿散井はお前のせいで傷付いた俺を慰めてくれていただけだ」
「うん…」
「疑われる様な事は何もしていない」
「うん…」
「じゃぁ、次はお前の番だ…」

日番谷の目から零れる涙は、気付けば止まり、その眸は静観に徹していた。

「お前と一緒に居たあの女性は誰だ?」

ずっと気になっていた事。初めて松本から聞いた時は目の前が一気に暗くなったのを憶えている。訳が判らずに、ただ愕然とした。
裏切られた。始めはそう思っていた。だけど、どこか冷めた自分が居て、諦めも早かった。
でもやっぱり大好きだから、誰にも市丸を譲れない。譲りたくない。

「あの人と僕は冬が思っとる様な関係やない…」
「濁すなよ…」

胸にチクリと針が刺さる。

「話せない…か?」
「ちゃうよ…あの人は…」

話の最中に突如、市丸は下を向いてしまった。

「何だよ…」
「せやから、あの人は……う、うえっ…」
「うえ?」

なんだかハッキリしない…。ジワリジワリとイライラが増していく。

「じれってーよ!早く言え!!」
「そんな急かさんで…」

何だ?!この女々しさは。さっきの勢いは何処行きやがった。

「で?」
「あの人は…ウエディング・プランナーっちゅう人なんよ…」
「は?何だそれ…」
「これは現世の言葉で、簡単に言えば、結婚式までの仲介をしてくれはる人なんや」
「結婚式……?!」

その一言に漸く頭が付いて来た。

「僕…冬と結婚したかってん。そうすれば誰も手ぇ出さん思うて…」
「市丸…」
「なぁ、ええやろ?僕と結婚したってや…」

思いもしない結末。

「嫌やった?」

不安…と顔に出ている市丸は、今にも泣き出しそうな弱々しさを纏っていて。

「お、俺で良ければ……って、馬鹿か!そんなの無理に……っ」
「冬…」

―――ポタッ。

日番谷の瞳から、今日三度目の涙が零れ落ちる。それは今まで流した事の無い程暖かな物で。

「ありがとう…ちゃんと返事貰ろたから…」
「……うん」
「幸せにしたるからな〜市丸冬獅郎はんww」
「馬鹿!勝手に名前変えんな!!」

漸く、二人の顔に笑みが戻った。
そのまま二つの影はゆっくりと倒れ、お互いを確かめ合うかのように体を重ね合った。





お互いを思い合う事は、お互いを信じ合う事。そんな綺麗な恋愛なんて俺には出来ない。
だけど、どちらかが闇に足を捕られたら、この身を削っても助け出す。

好きだから。大切だから。
だから、前が見えなくなる時も有る。

恋に罹ったら最後。この病は治ることを知らない。

End


ウエディングって……。
市丸さんの必死さだけ伝われば嬉しいですはい。

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