僕は貴方が好きで、
貴方は彼が好き。

届かぬ思いはもう捨てた。
叶わぬ願いは闇へと沈めた。


もう二度と、恋などせぬように。

咲かない花



「隊長ー…日番谷隊長ー…?」

スヤスヤと気持ち良さそうに眠る銀髪の少年。
ここは三番隊執務室。眠る少年は十番隊の隊長。
今は二人っきりでこの部屋の隊主は不在。
本来なら他隊で眠るなんてありえない事。でも、ここは特別ならしく。

「睫長いなぁ…女の子みたいだ」

すやすやと、警戒心の無い寝息。

「市丸隊長が夢中になるの…判るな」

普段は眉間に皺を寄せて、書類とにらめっこ。笑顔なんて殆ど…と言うか、全く見ない。
ソファーで眠る少年の頬はつやつやしてて柔らかそう。
チラリと覗く鎖骨も綺麗。

「まだ子供なのに…」

そう思っていたのは、さっきまでの自分。





霊術学院時代から市丸隊長に憧れて、あの人の側へ、あの人の下へ。
寝る間も惜しんで鍛錬した。
漸く掴んだ三番隊副隊長の座。
やっと、僕を見てくれる。そう思い、嬉しかった。


二人の時間が心地よくて。

貴方の側に居てもいい優越感。


だけどそんな夢事、あっという間に醒めてしまって。





恋心と、憧れ。
同じ様で、違う。

「この子は市丸隊長のモノ」

言い聞かせて。

「僕は何を考えてるんだろ」

また、考える。





市丸隊長は、僕の憧れの人。
恋しい人。

日番谷隊長は……、
羨ましい。妬ましい。羨ましい。
彼は僕の欲しいモノ、全部持ってる。



「隊長が…羨ましい」



自分でも分らないんだ。
彼等に対するこの感情。

咲ききれなかった恋の花。
いっそ、摘んじゃえば良かったのに。
だらだらと、先延ばしにして。

「結局、中途半端だな」

自分に失笑。
目の前で、恋人を待つ小さな少年。

「僕のファーストキス。貰って下さい…」

呟きと共に、重なる唇。
とても暖かな温もり。目の前の少年を想いながらも、彼の影を求める自分。


「貴方が、好きです」


どちらに向けた、言葉なのか。自分でも分らず、また失笑。





きっと、僕の花は
永遠に光を浴びる事はない。

End


悩めるお年頃の吉良くんでした^^

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