「之にて、定例集会をお開きにする」
毎度お馴染みの集会。やっとの事で終わりを告げられ、だるそうに各隊長等が立ち上がる。
「おい、松本…お前寝てただろ」
「やだ、隊長ったら……よく分かりましたね」
「……はぁ」
ここで怒鳴るのも十番隊の恥を曝すもんだと思い、拳を震わせながらも踏み止まる。と、そこへ霊圧だけで日番谷の神経を逆撫でるアイツがハートを振り撒きながら近づいてきた。
「冬〜!」
「……はぁぁぁ」
松本以上の深い溜息が口から漏れる。
――ガバッッ!
「ふっゆ〜捕っまえた〜!!」
後ろから鷲掴みされ、体を見事にホールドされてしまった。
「市丸、離れろ」
「嫌や」
「離れろ…」
「イ、ヤ」
「……」
日番谷の米神に青筋が奔る。ヤバイ…そう思った松本は即座に側を離れた。
怒り爆発まで後僅か……秒読み開始、5.4.3.2.……
「……もぅ、一緒に寝てやらないからな」
「―――?!」
想像を遥かに超える可愛い日番谷に市丸は速攻ノックダウン。硬直して全く動かない。その姿を見た日番谷は黒い笑み…。
思惑通り。
どうせ怒鳴っても蹴っ飛ばしても効き目のないコイツには逆に甘えればいいんだ。で、このザマ。チョロイ男だ。
「ふ…ふふふふ……」
俺の頭上から振ってきた不敵な笑い声。
「おい…」
「冬…僕を甘く見ない方がええで?」
「は?」
――パッ!
突如市丸は抱き締めていた腕を離した。
「…始めからそうすりゃいいんだよ」
「約束や。ほな、今から二人で寝よか」
「は?何でそうなるんだよっっ」
「離せば一緒に寝てくれるんやろ?」
「え、いや…そうじゃなくて…」
「嘘やったん?!酷いっっ!冬は僕を弄んだんやねっっ」
余所から見れば明らかに演技だと丸判りの猿芝居。だが、真面目な日番谷はそれを見抜くことが出来ず焦っている。
かなり挙動不審になってきた頃合を見て、行動を開始した。
「ほな、レッツ☆ゴーや!!」
「ちょっ、市丸っっ」
小さな日番谷を軽々と担ぎ上げ、市丸は瞬歩を使い集会場を離れて行った。
この場にいた全員、何時もの事だと微動だにしない。しかし、約一名あの二人のイチャラブを目を凝らして見ていた人物が…
「確か…あの二人は恋仲であったな…」
未だ椅子に腰掛け寛いでいた総隊長だ。
「これ雀部や、居るのじゃろ?ちぃと呼んで来て貰いたい者が居るんじゃが…」
なにを思い立ったのか、総隊長は雀部が去った後、満足そうに微笑み自室へと戻って行った。
「やだっっ、馬鹿!!降ろせっっ」
「はいはい。今降ろしたるからなぁ」
廊下を歩いてる最中から市丸に担がれた日番谷はジタバタと暴れ騒がしい。そんな事を気にも留めず、市丸が向った先は……言うまでもなく市丸本人の自室。
実は、先程まで一緒にこの部屋で眠っていたのだ。勿論、昨晩の事情の為……。
「ほら、着いたで」
「えっ、うわぁっっ?!」
ドサッ――
部屋に響く、荷物を放り投げた様な音。
「痛ってぇ〜…」
腰を摩る手が動かし難い…何か、体が重い様な……。
「またそんなに皺寄せてぇ〜…折角の顔が台無しや」
「いっ、市丸?!何上に乗ってんだよっ!!」
怒鳴る最中気付いた事。日番谷は片方の手首を掴まれ動けない。それを愉しむかの如く、市丸は満面の笑顔で覆い被り離れない。
徐々に近づく狐の顔…
「お、おい…本気か?!」
「何が?」
「昨日やっただろッ」
「今日はしてへんよ?」
「へ……っ!?やだっ止めっっ」
「いただきます」
「ぎゃ〜〜っっ」
暫くの間、市丸の自室からは日番谷の嬌声が響き渡っていた。
パタパタっ――
誰かが廊下を走る音…息遣いも荒く、かなり疲れている模様。
「市丸隊長は何処でサボってんだか…」
呆れた表情で辺りを見渡しているのは三番隊副官の吉良だった。市丸の失踪は何時もの事なのだが、あの男も一応隊長。副官には出来ない重要書類もある訳で。
「全く、何で集会の後真っ直ぐ帰る事が出来ないんだ!!迷子の子供じゃ有るまいしっっ」
つい愚痴が零れてしまう。それもこれも全てはあの狐のせい。こっちだってやりたい事が山積みだってのに…。
そうこうしている間に吉良は集会場の前に立っていた。一応、居残りの可能性を考えて…。
「…やっぱりいないか」
フゥと小さな溜息を落とし、来た道を返そうと足を動かす……と、中から声がした。
至極小さな声で、何処かで聞いた事のある人物の…。
「何だろ…」
コソコソ話すには訳がある筈。正直、少し興味があった。だって、コソコソと話す会話の内容に市丸隊長の名前が出ていたから…。
吉良が覗いているとはつゆ知らず、内緒話に花を咲かせる男二人。
一人はどっかりと椅子に腰掛け長い髭を撫で下ろす総隊長。もう一人は、吉良自身何度かしか見たことの無い、額に角を付けた白衣の男…技術開発局の阿近だ。
一体何を話し込んでいるのか…
「うむ…そうじゃ。市丸と日番谷の――を――して―――出来る様開発して貰いたい」
「はぁ…でも本人達が何と言うか…」
「構わんっ!それに、あの二人は恋仲じゃ。嫌とは言うまうて」
「……総隊長が其処まで言われるなら」
お互い、腕を組み真剣な面持ち。特に総隊長の方が乗り気ならしく、時折笑顔が垣間見れる。
「作業は隠密に頼むぞ。なんせ最近は面倒な輩が増えてきておるからのぅ」
「まぁ…それについては俺の耳にも届いてますけど」
「とにかく、頼んだぞ。尸魂界の未来に関る事じゃて」
「分かりました。時間が掛かるとは思いますが、必ず成功させてみせます」
何やら話しの結論が出たらしい二人は、顔を見合わせ不気味に笑うとそれぞれ別々の方へ歩き出し集会場は無人となった。
「……た…大変だ…」
やっと出た一言。段々と血の気が引いてゆく…。が、ここで倒れる訳には行かない!!
だって…、だって……、これは尸魂界を揺るがす一大事だから!!!!!
「と…とにかく落ち着いて…」
早まる鼓動を押さえ付け、まず自分が取るべき行動を考える。それは…
「そうだ!乱菊さんに報告だ!!」
そう言うが早く、吉良はキョロキョロと辺りを見渡し、瞬歩で松本の元へと向った。
清々しい午前の木漏れ日が窓から差し込む。外は道行く死神達で騒がしい。
しかし、この部屋は外とは正反対に凄まじい静寂が流れていた。
それを破ったのは眉間に皺を寄せた小さな少年で。
「おい…」
「ん?」
「言うことあんだろ?」
「……今日もええ締りで」
――ドカッッ!
「誰がそんな事言えっつったぁぁッッ!!!」
「なんや?まだ元気やん。もう一発やっとく?」
「ふざけんなーーー!!」
事をし終えた二人は仲良く布団に並び寝転がっていた。傍から見れば、イチャイチャしている様にしか見えないけど。が、この小さな少年は本気で怒っているらしく、ひたすら暴れる。それを笑顔で見つめる狐一匹…。
「可愛ぇなぁ〜」
「わっ馬鹿っっ!!抱きつくなっ」
「あかん…止まらんわ」
――ガババッッ!
「ひっ……いや〜〜っっっ?!」
本日二度目。部屋からは日番谷の甘い喘ぎ声が再度響き渡った。
――バタバタッッ
誰かが廊下を走る音…息遣いも荒く、かなり疲れている感じが滲み出ている。
「乱菊さんは何処でサボってんだか…」
呆れた表情で辺りを見渡しているのは、またもや吉良だった。市丸の失踪は何時もの事なのだが、乱菊さんも決して負けていない。とにかく、あの二人の行動パターンは至極似ている。だてに幼馴染を公表してる訳ではない。
ここは、日頃の勘を頼るしかない…
「多分…あそこだな」
日番谷隊長が近づけない上に酒も呑めて、口煩くないあの人が居る場所。
――ドタドタドタッ……スパーーンッッッ!!!
「乱菊さんっっ!!」
自分の勘を信じ、真っ直ぐここへ来た。居る事を確信して、勢い良く襖を開け放つ。
「やだっっ、吉良?!何よビックリしたじゃない…」
豊満な胸に手を当て相当驚いたのだろう松本が、大きな眼をくりくりさせ此方へ振り返る。
「驚いている場合じゃ無いんです!!一大事ですっ!!」
荒げた息を必死に抑え吉良がずかずかと中へと入ってくる。それを予想外と思ったのか、この部屋の主と松本が目を点にして呆けていた。
「ちょ、如何したのよ?!」
「おい…吉良っ?!」
二人同時の制止。が、吉良は凄まじい勢いで突進して、止まろうとしない。
「僕の話を聞いた方が良いですよ…。これからの為にも…」
漸く足の止まった吉良は、意味深な言葉を吐き捨てる。二人は顔を見合わせ首を傾げた。
「取り合えず座って」
「失礼します」
促されるまま畳へと胡坐をかいて。
「私がここに居るってよく分かったわね」
「そんなの簡単です」
「そう?」
「今までの経験を利用した推理です」
乱菊さんが居るのを知っておきながら日番谷隊長がここに来れない理由。
それは、この部屋の主、檜佐木修兵が日番谷隊長の元彼だから。部屋に入った所を市丸隊長に見られでもしたら一環の終わり。それを危惧して彼は一切近寄らない。
そして、檜佐木さんが松本さんを素直に匿る理由。それは、少しでも日番谷隊長と会える機会を増やすため。会えないとしても、日番谷隊長の最新情報を手に入れるため。
ここまで完璧な推理は僕にしか出来ないであろう。日頃の訓練のお蔭だ。
「そんな事より、何だよ一大事って」
「あ、忘れてた。僕ってば自己満の世界に入ってました」
「……はあ?」
檜佐木さんは我慢が出来ないのか、貧乏揺すりをして睨んでくる。
「では、お話します。僕が先程聞いた驚愕の会話を……」
ゴクリ…生唾を飲む音が部屋に響き、掻き消された。
護廷十三隊とは、靜霊廷の守護を主任務とする戦闘部隊。各隊を率いる隊長は隔絶した能力の持つ死神がその任に付く。秀でた能力を持つ者が後世に現れ、隊長としての任を任せなければならない。
戦闘中に死する事もある。その時に即座に隊長の席に着く者が必要。隊長と成るべくは他との圧倒的な力の差が無ければならない。
しかし、卍解に値する程の能力者は極僅か。隊長と名の付く限り、半端者は不要。
では、如何すればそのような者が現れるか…。
そんな裏事情を知ってか知らぬか、先程の事を語る吉良は饒舌だ。
「総隊長が阿近さんに、市丸隊長と日番谷隊長の精子を受精させて子供を作って欲しい。と言ってたんです」
話し終えた吉良はフゥと溜息を一つ吐き、漸く落ち着きを持ちだした。
一方、話を聞いた二人はフルフルと体が震えだしていた。
「冗談じゃないわよ…」
「総隊長…見損なったぜ…」
「僕も同じ気持ちです」
三人は目で互いの感情確認し、其々が立ち上がる。
――ダンッッ!
「召集をかけるわよっっ!!」
松本の怒涛の一声で、檜佐木と吉良は瞬歩を使い部屋を飛び出して行った。
「日番谷隊長との子供を……ギンには作らせない…」
一人残った松本の口から放たれた一言。今から始まる騒動を思い描き、無意識に口角がつり上る。
暫くして、不敵な笑い声が部屋に響き渡った。
「遅れてすまないっっ!!」
長髪を振り乱し、息も荒げに一人の男がある一室に駆け込んできた。
「…これで皆が揃ったわね」
部屋の中央、窓の前に佇む金髪の女性の姿。腕を組み、真剣な面持ち。
その女性を中心に、ズラリと並ぶ男や女。
この部屋に充満するピリピリとした霊圧は彼等が出しているらしい。誰一人談笑をする者も居らず、重い空気が漂っている。
ここに集まったメンバーを隊順に紹介すると、吉良、卯ノ花、藍染、雛森、朽木、阿散井、檜佐木、松本、浮竹の9名。
先程松本が招集を掛けたのは、日頃から日番谷を狙う上層部の人達だった。何時もは死闘を繰り広げる程のライバル関係なのだが、今は一時休戦。
正直、そんな事を言っている場合ではないのだ。
それもこれも、先程聞いた総隊長のあの一言が原因な訳で。
「ほんと、ありえねぇーよ…」
ポツリと文句を垂らす者。
「何故そんな勝手な事っっ!!」
露骨に怒りを表す者。
「……」
発する言葉すらない者。
其々が思い思いの感情をぶちまけ、気付けば部屋に収まりきらない霊圧が近辺の建物を軋ませていた。
「全員落ち着いてっっ」
ざわつきが増す一方の状況に渇を入れたのは今は一番妬まれているであろう人物の副官、吉良であった。
「お前は腹立たないのか?」
唯でさえ目付きの悪い檜佐木が、更に睨みを利かせて凄んで来る。
「立ちますよ!でもこれ以上霊圧を放出したら総隊長にばれて僕達は手出し出来なくなってしまいますよ」
その瞬間、しん…と静まり返る室内。霊圧も嘘の様に消え失せた。
「僕とした事が…迂闊だった」
藍染は米神を指で押さえながら項垂れる。
「その日が来るまで…待ちましょう」
卯ノ花の癒しともとれる声に、一同は頷き解散した。
あの騒動から数日。
今までと何等変わらない回りに気付くわけも無く。
「冬〜っっ!」
「わっ?!市丸っっ」
昼の鐘が鳴ると共に十番隊執務室に乗り込んできた狐一匹。
「お昼食べ行こ〜」
「分かったから離れろっっ」
ドタバタと騒がしい毎日。唯一つ、違う事といえば。
「ギン…そうしてられるのは今だけよ」
そう、あのメンバーが殺意の目を向けている…。唯それだけ。
ラブラブ全開で食堂に向かう二人に聞こえない様に、そっと静かに呟く。
「はぁ〜結構人居るなぁ〜…」
食堂に着けば、凄まじいほどの人だかり。其れもそのはず、ここは尸魂界に住む死神が利用する場所。昼飯時の今、人が居ない方がおかしいくらいだ。
「おい…。ここは止めてあっち行こうぜ?」
余りの人数に、人込みの嫌いな日番谷は来た道を引き返そうとする。
「嫌やっっ!!あっちは落ち着いて食事できへんっっ」
出口に向かい歩き出した日番谷の腕を掴み首を横に振る市丸…。何だかよく分からないが必死な顔でしがみ付く。
「何でだよ…こっちより断然人少ないじゃん」
「人数じゃあらへんっっ!!冬は判ってへんねや!僕の気持ちなんてっ!!」
「お前の気持ちなんて知るかっっ!俺は腹減ったんだからあっちで食うぞ」
スタスタと狐を置いて出て行く少年。置き去りは寂しいので渋々と後に付いて出て行く。
「俺何食おうかな…」
「僕!」
――ボカッッ!
「〜〜……痛いやんっっ!!」
「テメーが悪いんだろ」
もう一つの食堂に着いたらしい二人は、メニューの木板を見ながら考えていた。
「あ、日番谷隊長ww今から飯っすか?」
「阿散井…」
「……やっぱりや」
ハァ〜…。市丸は大きな溜息を吐き顔を顰める。如何して市丸がここに来るのを嫌がったのかというと…
「やあ、日番谷君。僕と一緒に食べないかい?」
「あら?隊長…今日はこっちで食べるんですか?」
「冬獅郎っっ!!久し振りだな!!」
「日番谷隊長、久し振りに二人っきりで食事しません?」
そう、ここは…隊長と副隊長しか使えない上級食堂であった。死神の中でアイドル的存在の日番谷を放って食事をする者など居ない。下っ端なら市丸が側に居るだけで近付きもしないのに、ここはそうもいかない。
「おい、市丸?どうしたんだよ」
「冬…早よ食べて部屋戻ろな…」
「あ?ああ…」
力なく項垂れる市丸を余所に、日番谷は満面の笑顔で食事を始めた。
――ドタドタドタッッ
「失礼します。総隊長は居られますかっ?」
一番隊執務室に飛び込んで来た男が一人。
「おお!阿近か!!待っておったぞ」
椅子から身を乗り出しどれだけ振りかの再会に喜びを露にする。
其れもその筈。あの日からかれこれ半年は過ぎていたのだから。
「で、如何なのじゃ??」
「はい、完成しました」
「そうかっっ!!では今から二人を呼んで、作戦開始じゃ!!!!!」
――ヒラヒラヒラ……
二匹の地獄蝶がある一箇所を目指し飛び立っていった。
「冬…気持ちええ?」
「あっ、やだっ…そこダメっっ」
未だ何も知らない話題の二人は事情の真っ最中。丁度、執務を終えたか終えてないかの時刻。外はすっかり日も沈み、蝋燭がゆらゆらと二人の影を揺らす。
「冬のええ声、もっと聞かして」
「ふぅっ…あっ…あぁっっ」
グチュグチュと水音の響く室内。
頬を朱に染め、瞳からは雫を零す少年。昼間とは正反対の甘い嬌声。
正上位で少年の中を荒らしていた市丸は、小さな体をぐいっと持ち上げ体位を座位へと変える。
「ひゃっ?!…やあっっ」
今まで以上に深く挿入したそれをその小さな蕾は懸命に呑み込み、快楽を得ようと締め付ける。
「冬の中、もっと欲しいってヒクヒクしとる」
「市丸っ…あぁっ、あっ」
そろそろ限界なのか、小刻みに体が震えだす。それを見逃さなかった市丸は、動かす腰を更に激しく、少年の弱い箇所を責め上げる。もう直ぐ限界、という所で動きを突如緩め、深く唇を重ねた。
「ふぇ…市丸っ?」
「冬、僕の事好き?」
「好き…」
「ずっと一緒に居ってくれる?」
「うん…」
「嘘やないなら、冬からキスして」
迷う事無く重ねられた唇。舌を絡め合い、甘い甘い口付け。
「…よぅ出来ました」
そう言うと、市丸は律動を開始し、己の欲と共に少年を絶頂へと迎えてやった。
「さ、冬。中綺麗にするから大人しくしててな」
「う〜〜…」
事情の後の何時もの行為。これをしなくては日番谷は腹痛を起し、苦しむ事になる。それを分かっているので、拒絶する事も無く受け入れる。まぁ、気を失っていれば耐える必要も無いのだが…。
「ふぁっ……んっ…」
「冬…誘ってはるん?」
「ちがっ…」
「ほれ…」
グチュリ…わざと音を立て中を掻き出す。
「やぁっ…あ」
ビクリと肩を揺らせ、敏感に反応する体。ニヤリ。市丸は口角を吊り上げる。
「しゃーないなぁ……。あ…」
ガバリと覆い被さってきた市丸は、窓を見つめ動きが止まった。
――ヒラヒラヒラ……
「地獄蝶…?」
「二匹居るな…」
ガラリ、扉を開けてやる。ゆっくりと舞い降りた地獄蝶は、其々の指へと止まり言の葉を伝える。
「……??とにかく向おう」
「は〜、ええとこやったんに…」
二人は身嗜みを整え、部屋から出て行った。それを見つめる四つの瞳。
「動き出したようね…」
「呼び出し、掛けて来ますね」
お互いの副官、松本と吉良の二人。隊長の動きに関してはこの二人が適任。常に動きを観察されていたのだ。そうとも知らず、仲良く寄り添い一番隊舎を目指す二人。
今まで張り詰めていた空気が僅かに動きを見せた。
「三番隊市丸と十番隊日番谷です。総隊長は居られますか?」
ギィ…木の軋む音を立て、一番隊の大きな扉は開け放たれた。そして、部屋の中央を見れば椅子に腰掛た総隊長の姿。と、その横に二人にとっては理解できない阿近の佇む姿。
意味が分からずただ突っ立っている二人に手招きをし、中に入るよう促す。
「夜分遅くにすまんの」
「はぁ……??」
何故かご機嫌な総隊長を不審に思いながらも促されるまま前へと足を進める。
「何の用です?僕達は忙しいんやけど?」
いいところを途中で切り上げさせられた市丸は少々ご立腹の様子。
「まぁそう怒るな。今から儂が話す事はお前等にとって喜ばしい事だと思うんじゃが…」
「喜ばしい事?」
総隊長が放った一言に二人は喰らい付く。
「そうじゃ。驚くでないぞ…」
ゴクリ…生唾を飲み込む音が静まり返った室内に響き渡る。ふぅ、総隊長が小さく息を吐いた。
「男同士とは何と不便なモノよ…。じゃが技術開発局の最新技術で儂の悩みは解消された。それは!市丸と日番谷の精子を組み合わせ、新たな命を芽生えさせる事が可能となったからである!!」
鼻息も荒くありえない一言を言い放ったジジィに流石の市丸も開いた口が塞がらない。
「総隊長…ボケるの早すぎだろ…」
額に手を当て日番谷が呆れた声を出す。
「日番谷隊長、これは事実です」
阿近が横から言葉を返す。
「事実もクソもあるかっっ!馬鹿らしい…俺は帰るぞ」
「ちょっと待った!!阿近はん…それほんま?」
「はい。先程も話した通り、実験は成功したんです」
なにやら話しに乗ってきた市丸は阿近に詰め寄り話を聞き始めた。一方、日番谷は市丸に腕を掴まれて帰る事が出来ない。総隊長も加わり、話しに熱が篭り始めた。
子供とは義骸の事ではないのかとか、二人の細胞で作った人造人間ではないのか。とか…
「最後に、どうやって子作りするん??」
「それは簡単です。この薬を日番谷隊長に飲んで貰い、何時も通りやっちゃって下さい」
「なっ?!やるって…おいっっ!!」
「中出しでええんやろ?」
「市丸っっ?!」
「勿論です!」
日番谷を余所に話しの纏まったらしい一同は、ニンマリと頬を吊り上げ日番谷を見つめる。
「冬、子作り頑張ろな」
「尸魂界の為じゃ、頼んだぞ」
逃げれない…。瞬時にその事を悟った少年は力なく床へ座り込んでしまった。
と、不意に何かを感じ取ったのか、総隊長と市丸はここの入り口に目をやり気を集中させる。
――ギギ…ギィィーー…
暫くして一番隊執務室の扉は誰かによって開け放たれた。
「総隊長!!見損ないましたっっ」
聞こえた第一声。それは俺の良く知る女性の声で。
「松本…?」
後ろの方から続々と現れる黒い集団。全員良く知る顔だ。
「なんや?」
「ほう…」
松本と共に入ってきた人物。それは例の集団であった。ピリピリとした霊圧が部屋を充満し始めたのは言うまでもない…。
「お前等…なんでここに」
放心状態の日番谷はこの状況の理解に苦しんでいる様子。それとは逆に、即座に状況を読み取った市丸と総隊長はうろたえる様子も無くただ見つめる。
「日番谷隊長の相手は市丸隊長では役不足だと思います」
「なんやてっっ?!乱菊!!僕と冬は恋人同士や。子供作って何が悪いん」
「私と作ればそんな薬使わなくても出来るのに」
「やだっ!?乱菊さん、シロちゃんは私のですっっ。若い方が元気な子生まれますよ」
「若いって、あんた!!シメるわよっっ!!!」
暴言と罵声の荒らし。女ってマジ怖ぇ〜…
「冬獅郎は誰にも渡さんぞっっ!!」
「父親気取りは止めて諦めたらどうかな…」
「君みたいな似非俳優に言われる筋合いは無いね」
一歩遅れて男の方もヒートアップしてきた。
「俺は元々冬獅郎の彼氏だ。選ばれる権利はあるだろ」
「所詮元彼。今は関係ないっすよ。寧ろ俺が相手に相応しい…」
「野良犬は下がれ…。貴族に収まれば衣食住何不自由なく暮らしていけるぞ」
「隊長?!今、野良犬言いましたか?!」
「貴様、野良犬ではなかったら何なのだ??」
「酷ぇ……」
何か訳の判らない展開になってきた。
「仕事をしない市丸隊長より、僕の方が断然将来性がありますっっ」
「私の側に居れば、子供の体調は心配要りませんよ」
「貴族になれば全ての心配は不要だ」
「ダメだ!ダメだダメだーー!!冬獅郎には指一本触れさせんっっ」
「それは無理だね。僕は日番谷君と指以上の関係なのだから」
どさくさに紛れての爆弾発言。
「藍染はんっっ?!それ本当なん?!」
「ああ、勿論。ね、日番谷君…」
「ひっっ……」
「冬の浮気モノーー!裏切りやーー!」
「おや、ギン知らなかったのかい?」
既に収拾の利かなくなったこの現場。段々と日番谷の表情が曇ってくる……。
それに気付く者は居らず、事態は斬魄刀の開放まで悪化していた。
「……市丸…」
ポツリ、そう一言。
「冬…?」
殆ど声に出してはいない筈の呟きに、俺の求めた奴は気付いてくれて。
「市丸は子供欲しいのか?」
「え…ちょ、冬?!」
突如、頬を伝う雫が見えた。慌てて覗けば翡翠に溜めた大粒の涙が収まりきらずに溢れ出していた。
「俺はっ…お前と二人で…ずっと居たい…」
止まらない涙と嗚咽。しかし日番谷は市丸に必死に訴えかける。
周りは相変らずの戦場。
「…そやね」
ポンポンと泣く子供を宥め、市丸はある一点に向かい人山を潜り抜け歩き出した。
「阿近はん…その薬、貰える?」
阿近より受け取った薬瓶。
「こんなもんで…冬が泣く事あらへん…」
市丸は徐に掴むと…――パリーーンッッッ…
それを勢い良く地面に叩きつけてしまった。無残に散らばる破片と液体。
その音に驚いたのは阿近だけでは無く、この場にいた全員の動きがピタリと止まる。
「なっ?!市丸隊長っ!!?!」
真っ先に声を出したのは、この液体を半年もかけて開発した阿近であった。
「堪忍なぁ…こんなもん僕達には必要ないねん」
ゆっくりと市丸は日番谷の元へ歩み寄る。立ち上がれない少年を優しく抱え上げ、頬にキスを落とす。
「市丸…儂の意見に逆らう気か?」
納得のいかない総隊長は一段落低い声で凄んで来る。
「強制はよくないで??第一、そんな凄いの作る能力あるなら別に活かしたらどうなん??」
「う…」
「改造魂魄を作り直すとか出来るやろ??」
「うう…」
「とにかく!僕達二人が嫌言うたんやからこの話は無しって事や」
「……」
もはや誰も口出しする者は居ない。
「それでは皆さん、さいなら」
日番谷を抱えた市丸はヒラヒラと手を振り、軽快に一番隊舎を出て行ってしまった。
残された者は呆気に取られ、身動き一つとれない。
「ふぉふぉっ、市丸の言う通りじゃな…」
こりゃ参ったと言わんばかりの総隊長はそのまま席を立ち、自室へと消えていってしまった。
「ちょっと吉良…如何言う事よ」
「え?!僕ですか?」
「当たり前でしょ!!言い出したのはあんたなんだからっっ」
「そ、そんな〜」
吉良の悲痛な叫びは誰に届くことも無く、ただ夜の闇へと吸い込まれていった。
喜怒哀楽。
コロコロ変わる君の表情。
今で十分幸せや。
これ以上は望みません。
「冬、大好きや。これからもずっと一緒に居よな」
「市丸こそ…俺から離れるなよ」
End
阿呆ネタですが、最後は市丸さんに大人になってもらいました。
<< Back