「ギン…いい加減にしてくれないか」

「なにがですの。いい加減にするのはそっちの方や」

花一匁



ポカポカと太陽の日差しが心地よい瀞霊廷。
ここは隊舎より離れた小高い丘。そこには威風堂々と立ち伸びる一本桜。

今が満開の桜の木の下で、不釣合いな言い争い。
腕を組んだ爽やか笑顔の男と、張り付いた、こちらも笑顔を見せる男。

「煩い…」

木の幹に寄り掛かり、呆れた表情を見せる少年は眠たいのか、目は虚ろに瞬きが多い。

「ああ、シロ御免ね。直ぐ静かになるから」
「せや。今すぐ邪魔者退かしたるからな」

座る日番谷の目の前に立ちはだかり、微動だにしない藍染と市丸。相変わらず言い争いは治まらず、段々と日番谷の眉間に皺が寄ってきた。



そもそも、何を一体もめているのか。





「シロの後を付けるのは止めてくれないか」
「付けてへんわ。自分こそ付回すのは止めや」

溜息混じりに、しかしヒートアップする論争。

「僕は恋人としてシロの側に居るだけだよ」
「あんさん何かあったら恋人恋人って。そんなに恋人は偉いんか」
「ギン…君は本当に頭が悪いな」
「なんやてっ!」

普段は冷静な市丸が今は酷く血気盛んで、藍染に言われた一言に突如霊圧が上がった。

「おや?やる気かい?」

ニタリ、藍染の不敵な笑み。

「退かない言うんやったら、散らすまでや」
「ふっ…構わないよ。いい度胸じゃないか」

応戦。藍染の霊圧が上がる。

「おいっ二人とも帰れっ!俺は眠ぃんだよ」

今まで黙って傍観していた日番谷の、少しドスの聞いた声。それに驚き二人同時に振り返る。その表情は面白い位にシンクロした、ショック面。

「御免よ。シロ…」

藍染は日番谷の元へと近寄り、その小さな体を抱え上げる。そして膝に乗せ優しく抱き締めて、日番谷も案外大人しくその胸に治まる。

「日番谷はんっこっちの方角、風邪が気持ちええよっ!」

ヒョイ。
抱き締める藍染の上から腕を伸ばし、市丸は日番谷を奪い抱え上げた。そのまま移動して、今まで居たのとは真逆の方へ腰を下ろす。

日番谷は変わらず嫌がる素振りを見せない。





「ギン…」

藍染の米神に青筋が立つ。
市丸は視線を逸らし、胸に抱く少年を抱き締める。



「………あい…ぜん」



極小さく聞こえた声。
それは市丸の胸に顔を埋める日番谷からだ。

「僕を呼んだかい?」

藍染が満面の笑みで手を差し出す。市丸は面白く無さそうに少年を見詰め、それでも求める相手が自分では無い事に諦めたか、抱き締める腕を解いてやった。

背中から腕を回し、後はこの小さな体を持ち上げるだけ。


なのに。


「へ?日番谷はん?!」

市丸の間の抜けた声。
藍染も戸惑いに眉を下げる。

「シロっ?如何言う事だいっ?!」

グイグイ。
脇を抱え引っ張り上げようと試みるも、その細く小さな腕は市丸の服を掴み離れない。少し強く引っ張ってみるも、やはり離れない。

藍染っって呼んだよね?
そんな確認が、男二人の視線で交わされた。


スー…スー……――。


何処からか規則正しい寝息が聞こえた。

それは市丸の下から。





「……あらら、寝てはる」
「余程疲れていたんだね…」

スヤスヤと気持ち良さそうに眠る日番谷。

「やれやれ。シロには勝てないな」
「ほな、藍染はんは隊舎戻ってな」
「何で僕が?」

呆れ顔の藍染。
余裕の市丸。

「日番谷はん、僕に抱きついて離れへんもん。一緒に居たらなな」
「シロは僕と君を間違えて抱き付いているだけだろ?帰る訳にはいかないよ」
「ほな如何しますの?」

挑発しているとしか思えない市丸の態度に、それでも批正を装い笑顔を見せる。
溜息を一つ吐いた藍染は市丸の横に腰を下ろし、

「無理矢理引き剥がして起こすと可哀想だからね。僕もここで一休みするよ」
「………おっさん、僕に触れんといてや」
「僕はシロの横に居るだけだよ。君なんて眼中に無い」
「ふんっっ!」





サワサワ……。
心地の良い風が駆け抜ける。
太陽も少しだけ傾き、木陰が広く過ごし易い。

「おやすみ。シロ」

藍染は眠る恋人の頬へキス。

「おやすみ。日番谷はん」

市丸は眠る少年の髪へキス。



スヤスヤ。
其々が春の木漏れ日を浴びて、気持ち良さそうに眠る。

平穏な瀞霊廷。


太陽だけが三人を静かに見詰めていた。

End


勝って嬉しい花一匁負けて悔しい花一匁♪
さて、どっちが勝ちだったでしょうか!

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