珍しく非番が重なった日番谷と花太郎は、久しく行ってない瀞霊廷の繁華街へと足を運ぶことにした。
恋人同士の二人にとっては、これはれっきとしたデート。花太郎は前日の夜から寝付けず苦労した。
「ん〜良い天気」
寝不足さえも忘れそうな快晴に、花太郎は大きく背伸び。横に並ぶ日番谷は、そんな花太郎を気にする事も無く不貞腐れている。
「日番谷隊長……如何したんですか?」
「いや」
「機嫌が悪そうですけど」
「何でもない」
昨日までは隊長も楽しみだと笑っていたのに。
「嫌なら帰りますか?」
「……は?」
昨日からの楽しみ分、今日の態度が辛く感じる。
隊長は忙しい人で、書類とか一杯あるのに連れ出したから機嫌が悪いんだ。デートだと思ってるのは、きっと僕だけ。
「花太郎、本気で言ってるのか?」
「……言わせたのは隊長じゃないですか」
「意味が判らねえ」
「僕はずっと楽しみにしてたのに……ッ」
言ってて情けなくなる。下を向けばポタリポタリと地面を塗らす透明な雫。
それが涙だと気付けばもう止まらない。惨めだろうが何だろうがボロボロと零れる。
「隊長は最低ですッ。嫌なら最初から断ってくれれば良かったのに」
悔しいから言いたい事を言ってやろうと思った。
日番谷はそんな花太郎の姿を見ても動く事はない。心配してくれとは言わないが、少しは驚くなりのアクションを見せてくれても良いのに。
花太郎の思いが伝わったか否か、日番谷の口は盛大な溜息を吐いたと思えば次に僕の名を呼んで一呼吸。
「昨日、松本に言われたんだ。俺とお前は本当に恋人同士なのかと」
「……グスッ」
「仲良しの兄弟みたいって言われて……何も言い返せなかった」
初めより少し小さな声で言った日番谷の一言に、花太郎は涙も拭かずに顔を上げた。
「兄弟なんかじゃないです!僕は日番谷隊長の恋人なんですッ!」
ショックと言うより、苛立ちが先行して。
花太郎は場所も考えずに大きな声で訴えた。言われた日番谷は大きな瞳をパチクリ何度も瞬きさせて僕を見る。
「恋人……だよな」
「はい!」
「花太郎はそんな事考えてないと思ってた」
「僕を馬鹿にしないで下さい」
正直、何で泣けば良いのか判らなくなる。ただ頭の中は悲しいが充満して、この場に居たくないと言う事だけを繰り返す。
「これ……」
「え……?」
両手で顔を覆い泣いていると、突如隊長が僕の肘を突いて来た。それに視線を落とすとそこには隊長の手に収まる小さな箱。
グズグズと鼻を啜りながらもそれを受け取り中を見る。
「……うひゃあっ!」
想像もしていなかったその中身に、僕は奇想天外な声を上げ箱を落としそうになった。慌てて懐に抱え込み、もう一度その中身を確認。……見間違いじゃない。
「あ、あの……」
「お前にやる」
「でもっ」
「嫌か?」
首がもげそうな位に左右に振って否定を示す。すると隊長ははにかんだ笑顔を見せ、僕もつられて笑った。
「手を出せ」
「……はい」
どっちの手にするか悩む事無く僕は左手を差し出した。
大好きな隊長が僕の手をとり、更に薬指を取りそこに箱の中に入っていた銀色のリングを通して。
「丁度だな」
「うわあ……綺麗……」
「恋人としての証な」
「……」
ずっと見とれていた。
キラキラと太陽に反射する僕の薬指。中央にあるダイヤが幾重にも輝きを放出させて眩しい程。
「悲しいのか?」
「え?」
「泣いてるから」
「はえっ?!うわっ、何でだろ」
言われて確認すれば、僕の頬は確かに塗れていた。拭っても拭っても止まらなくて、なのに頬は緩みっぱなしで締りが無い。
「嬉し泣きです、かね」
「……そうか」
困ったような安心した様な表情で隊長は腕を組み僕を見る。
感謝の気持ちを伝えたくて、大好きだって一杯伝えたくて、
「ッ……!」
「えへへ」
僕は隊長の口へキスをした。驚いた隊長の顔は一生忘れないと思う。
二人して茹蛸みたいに真っ赤になって、誰も居ない気の影に隠れてもう一度キス。
色んな意味で泣かされたけど、僕は隊長の事を好きで良かった。
隊長の恋人にしてもらって、本当の幸せというものに出会うことが出来ました。
End
その後、瀞霊廷デーとは仲睦まじく終了したらしい。
<< Back