「風邪ひくぞ」
白い息を吐きながら窓の外を眺める恋人に、ペラリ紙の捲れる音と共に掛かる声。
「あ、寒かったですか?」
振り返りながら窓を閉めて、書類から視線を離さない恋人へと返事を返す。そのまま横に並び屈み込んで、椅子の脚を背に時間を潰した。
カチカチと秒針の進む音がやけに大きく響いて、隊長職と言うのがどれだけ過酷なのかを知らされる。
大好きな人の側に居れるだけで幸せな事だけど、もっと触れたいし触れてもらいたい。初めの頃には持ち合わせていなかった我侭な自分がチラホラと姿を現す。
でも無理は言えない。辛い表情を見たいなんて思わないから。側にいる、それがどれだけ幸福な事か思い出せと自分に言い聞かせてみたり。
「寂しいよ……」
「寒いのか?」
「え、いや……大丈夫です」
無意識に出た言葉。
隊長は聞き間違えたらしく、僕の体の心配をした。体じゃなくて、心の心配をしてほしい。迷惑を掛けたくないから聞き間違えてくれて良かったのかもしれないけど、本当は聞こえてほしかった。本音と建て前が噛み合わずにモヤモヤする。
「ぅぅ〜……」
考えすぎて頭を抱えてしまう。日番谷隊長は表裏がなくて、誰に対しても態度は同じ。言葉数も少ないし、一見冷たくも感じる態度が素だったりする。僕はそんな隊長に恋をしたんだ。時折垣間見える優しさは僕だけの為にあると僕自身が知っている。
「花太郎」
「うへぇっ?!」
呼ばれて飛び上がった。後ろを振り返り姿を探せど隊長の姿は見当たらなくて、ハッと正面を見れば腕を組む隊長が呆れ顔で僕を見ていた。
「何も着込まないで寝やがって……」
「ぼ、僕寝てました?」
「ああ、熟睡だな。ったく、器用な奴だ」
考え込んでる最中に寝てしまったのか……。確かに前後の記憶が無いし、隊長が移動してただなんて気付きもしなかった。
「あの…書類は?」
「終ったよ」
「僕、迷惑でしたか?」
眉を下げながら、一番の心配を確認した。
すると返事が返ってこない代わりに、隊長の香りと共に暖かな温もりが全身を包み込んだ。
「迷惑どころか、助かったよ」
「え、え、え、え?」
「花太郎が横に居てくれたお蔭で足元が暖かかった」
「……僕は猫ですか」
「ははっ……猫か、そうかもな」
笑いながらも隊長は僕を抱き締めて離さない。モヤモヤする気持ちが一気に吹き飛び欠片もなくなってしまった。
安心して気付く室内の寒さ。救護室と違い暖房設備が無いこの隊舎は外気と然程変わらない位に冷え切っていた。
なのに、
「日番谷隊長、暖かいですね」
「お前が側にいるからだ」
「僕が?」
聞いたのに返事は返らなかった。チラリと顔を覗き見ようとしたら直ぐに逸らされ腕を解かれて。でも、後ろからでも見える耳は真っ赤に染まっていた。
「また来ても良いですか?」
「ああ」
何だか嬉しくて、心が軽くて、やっぱり僕は隊長が大好きなんだと再確認。
怒られるかなと思ったけど、不意打ちで頬にキスを落とし逃げるように隊舎を離れた。
帰る最中に隊長の香りと体温を思い出し、頬が緩むのを抑えられない。
理由なんて判らないけど、不思議な位に僕の足取りは軽かった。
End
日番谷隊長も花太郎にメロメロって事で。
<< Back