――キィーンッッ
「次ー!!」
「え〜…」
「じゃ、次は僕の番だね」
刃物のぶつかる音が響き渡る。なにやら騒がしいこの現場に、一体誰が何をしているのだろうか。
「冬〜もぉええんちゃうん?」
「まだだ!嫌なら市丸は帰れよ」
「そうだよ。後は僕に任せて、ギンは帰りなさい」
「阿呆か!藍染はん残して帰ったら、僕一生後悔してまう!」
ぎゃぁぎゃぁと子供の様に取っ組み合いを始めたのは、皆様もご存知、三・五・十番隊の隊長の面々だった。
「後悔ってなんだよ…」
「はぁ……言わな判らんの?」
口角を吊り上げ、首を横に振り、市丸は呆れたように話しだす。この態度はかなりムカつく…まぁいいけど。
「あんな、藍染はんと二人っきりになってみ?速攻犯されるで?僕が側に居るからまだ大丈夫やけど、結局は子供は大人になんて勝てへんねん。一応、斬魄刀もっとるけど元々の霊圧からして桁違いやし、でも隊長同士やからなんとか出来るかもやけど、やっぱそこらへんは子供と大人の差で隙をつかれたら一環の終わりやし……って、冬?」
折角日番谷の為を思い話している内容を、本人は下を向き聞いていないご様子。
判り易い様にと言葉を選んだつもりの市丸は、聞いていなかったと言う事実に少々ご立腹。
「冬?聞いてはる?」
少しだけきつく問いかけて。
プルプル…日番谷の体が小刻みに震えだす。
「……言いてぇー事はそれだけか?」
「へ?」
「おやおや…」
カチャリ…柄を握る音がした。
そして深く深ーく息を肺に送り込み、大きな翡翠を市丸と言う生物にロックオン。
「俺はな…餓鬼扱いされんのが一番腹立つんだ。知ってるよな?恋人だろ?知ってて言ったんだよな?じゃなんだ、今日の鍛錬も俺を餓鬼だと嘲笑いたくて付き合ってくれたって事か?餓鬼で上達もしないのに阿呆みたいに足掻いて哀れだと見下してんだな?そうかお前も結局は他のクズ共と一緒の考えだったんだな」
普段口数の少ない日番谷からの突風の様な言葉言葉言葉。
「ふっ冬、僕はそんなつもりで言ったんとちゃう…!」
「問答無用…」
スゥ…剣先を市丸目掛け構える。
「霜天に坐せ!氷輪丸っっ」
ドドドドドドド――…。
始解の言葉と共に氷輪丸が飛び出した。目指すは勿論、クズ狐。
「ギャアアァァァァーー!!!」
逃げ惑う狐。それを眺める、狸と子猫。
「日番谷君、僕は君を子供だと思ったことは無いよ?寧ろ尊敬してる位さ」
「藍染…」
ゆっくりと、藍染の手は日番谷の肩へ。子猫からの反応は無し。
「さ、場所を変えようか…ここじゃ集中できないからね」
「……そうだな」
泥棒狸復活!しかし今回は間抜けな狐のお蔭で軽々と子猫をゲットできた。
さっきも言ったけど、ここは実力の世界だろ?強ければ上に立てる。上に立てば見た目で判断する輩も逆らいはしない。
だから俺は強くなる。
誰にも負けない、屈しない男になってみせる。
「子供扱いされて怒るのは、立派な子供の証拠なんだけどね…」
「ん?藍染、何か言ったか??」
「いや、何も…」
つい考えが口に出てしまった。聞かれなくて良かったよ。子供には言葉を考えて話さないとね。ギンはまだまだ経験が浅いな。
笑い出す気持ちを押さえ付け、笑顔の貴公子は平然と日番谷を連れこの場を離れて行った。
「っっはぁっはぁっはぁっ…あんの狸…何処行きはった!」
なんとか氷輪丸を撒き無事生還した市丸は、あの二人が居ない事に気付き慌てて辺りを見渡す…が、時既に遅し。
既に二人の影も無くなった鍛錬上に一人取り残されたかたちとなった。
「冬…僕を怒らせたみたいやな…」
市丸の中にドス黒い感情が湧き上がる。
可愛い可愛い子猫が、狐にお仕置きされるのは今夜辺りだろうか。
End
良かれと思っていった言葉が仇となる。ギンちゃん、これも勉強だよ!ってね。
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