罪の炎に焼かれて



「まだ足りねえよ」

鴉共の狂音も遠退く、夜に移行すると言う時間。
夕飯時には似つかわしくない布の擦れる音に甘い睦言。

「あっ…ん」

荒い息に混じる喘ぎ声。
男の物にしては酷く妖しげに耳を侵食して。
上から覆い被さる男は一心不乱に下で喘ぐ男の腰を揺さ振り続けた。

「なあ……土方………」

前後に激しく揺さ振られながらも呼ぶ声に、そろそろ絶頂を迎えようとしていた男は遮ったその言葉に訝しげな瞳を向ける。

「明日は何処に行く、の?」

喘ぎながら、下孔を適度に締め付けて質問を投げかけて。

「そんな事聞いてどーすんだよ」

武装警察真選組。
内々の情報を外に漏らすなんて言語道断。
ましてや副長と名の持つ当人が口を開くなんて有り得ない。

「心配なんだよ。お前が何処で何をしてるのかが」
「んな事、考える方が不安だろうよ」
「それでも知りたい。なあ、明日は何処で攘夷浪士を捕縛しちゃうの?」
「……ったく」

お前だから特別に言うんだぞって、男は二人しか居ない室内で耳打ちしてきた。

「………結構遠いね」

京の都から一山越えた小さな集落。
そこに潜む浪士集団を一斉鎮圧するらしい。

明朝早々、副長を筆頭に二番隊と五番隊を引き連れて。

「聞きたい事はそれだけか?」
「ん、さんきゅ」
「ならさっさと続きするぞ」















ガララと静かに戸が引かれる。
出てきたのは黒と白の衣服を着る二人。
見詰め合うも、先程の情事を思わせる薫りは無い。

「寂しくても泣くなよ」
「うん……」
「今から泣きそうでどうすんだよ」
「だって」
「可愛いな」
「可愛くない」
「……早く帰るさ」
「うん」
「一番に会いに来る」
「うん」
「そん時は最高の笑顔で迎え入れろよ」
「……判った」

堅苦しい隊服を身に纏った土方はピシリと言葉を放ち去って行った。
小さくなる背中を見送る。

と、

「ふふっ」

一人、笑い出した銀時。
その顔は人を欺く事に成功した悪戯小僧の様で。










「酷ェ男だな」










ここには銀髪の彼しか居ない筈だったのに、気付けば背後に煙管の煙。

「なぁ、明日だとよ」
「へえ」
「お前んトコの参軍がいるんじゃねーの?」
「時刻は」
「明日の早朝、日が明ける前に発つって言ってたな」
「そうか」

隻眼の先に見るものは。
銀時の視線が釘付けとなる。

「帰り際を襲撃するなんて洒落てるよなァ?」
「ご勝手に。でも、土方だけは怪我負わすなよ?」



ジワリ、ジワリ、

足元から徐々に片付けて行こうじゃないか。



「……怖ェ奴だよ、お前は。昔も今もな」
「褒めてんの?」
「さあな」

一息吐き出された紫煙に表情が隠れる。
徐々に薄れるそこに浮かび上がったのは、隻眼の男を恋しそうに見詰める夜叉の目。

「早く抱いて」
「そう急かすな」
「高杉ぃ、早く」
「我慢のきかねェ奴だ」

半ば強引に寝室へと引きずり込む。
先程まで違う男と愛し合ったそこは、未だその事実を訴えかけて。

「あの狗も哀れなもんだなァ」
「銀さんの事大好きなんだって」
「そりゃ妬けるこって」
「でも俺には高杉だけだよ」
「……どうだか」

寝床へと腰掛け一服と煙管を吹かせば、面白く無さそうに唇を尖らせた彼と目が合った。

「早く、早くして」

俺には時間が無いの。

「まあ待て」

何れ滾るであろう罪人を焼き尽くす炎。



それに呑まれる日まで、





「その時が来りゃ俺がテメェを葬ってやるよ」





どうかこの遊戯が続きます様に。

End



<< Back