書類整理の息抜きにと町を巡回していた。
今日も何事も無く平和だなと思いながら、それでも小さな事件を見逃さない様に気を配る。
ふと視界に銀髪の男がチラリホラリ。
人山の中心で怒鳴り散らかす傍らで眼鏡を掛けた子供が懸命に止めている。
何か事件かと思い、俺は腰の刀をカチャリと鳴らし人込み目掛け駆けて行った。
「テメー絶対ゆるさねーかんなっ!死ね!取り敢えず死んどけ!」
おいおい一体どうしたってんだ。
人山の最後尾に身を置き中を伺えば、やっぱり万事屋がハゲた親父の胸倉掴みブチぎれていた。
「真選組だ。道を開けろ」
大声を張り上げそう言うと、面白い程に人が道を開けた。問題の人物へと一直線に繋がる道を進み、弱り切ったオヤジに視線を落とす。
「何があったか知らねーけどよ。こりゃやり過ぎだろ」
そこには鼻から血を垂らし、顔面は元が認識できない程に腫れ上がった無残な塊。
土方は大きな溜め息一つ吐いた後、胸ポケットに忍ばせてある煙草へと手を付けた。その仕草を真っ直ぐに見つめていた銀時は、不貞腐れた顔をしながらオヤジを掴む手を解く。
「今度ケツ撫で回したら容赦しねーかんな!」
「銀さんっ、早く戻りましょ」
眼鏡の少年に背を押されながら万事屋は戻って行った。同時に野次馬達も祭りが終わったかの如く散り散りに去って行き。
現場に残ったのは土方と、さっきまで被害者だと思っていたオヤジの二人。
「ケツ触ったって……」
誰に問うわけでもなく一人呟いて。
ポトリ、手に持つ煙草が静かに地へと身を落とした。
「たっ、助かった!あの男が突然襲ってきてっ……」
オヤジは醜態を晒す事も構い無く、土方の裾を握り締め訴える。
その必死さと言ったら凄い。瞳孔かっ開きの鼻水か鼻血か見当のつかない代物を垂らし、早口で弁明を繰り返すのだ。
弁明?………いや、弁解だな。
「襲われたじゃなくて襲ったんだろ?」
「はい?」
「テメーのその汚い手で、銀時のケツ触ったんだろーが」
「いやっ、ちょ……お巡りさん?」
土方の声色の変化に顔を引きつらせながら、オヤジは一歩、また一歩と後ずさって行く。
「俺ぁー現場見てねーからな。しょっ引くのは勘弁してやらぁ」
ボキボキ…。
豪快に骨を慣らす音。
「あのっ、話し合いましょ、ね?」
「……問答無用」
「ギャーーー……!!」
―――……。
ピンポーン…。
「は〜い」
覇気の無い返事と共に、気だるそうな足音。
万事屋の玄関でその人物を待っていれば、距離のわりには時間が掛かった影が漸く見えてきた。
「俺だ」
「……多串君?」
何度言っても直そうともしないその呼び名に反発するのもいい加減疲れる。小さく溜息をついたと同時に戸を引かれ、待ち焦がれた人物が姿を現した。
「おわっ?!」
姿を確認するや否や、俺は目の前の恋人を無心で抱き締めた。
頭よりも体が先に動く。剣士として誉れる行動だが、生憎ここは戦場でもなければ一騎打ちの場でもない。よって、銀時は突然の出来事に対応しきれずヨロリと体を仰け反らせた。
「お、多串君?どうしたの?」
「……すまねぇ」
「謝罪?悪い事でもしてきたのかコノヤロー」
「………守ってやれなかった」
側にいてやればあんな事にはならなかった。銀時があれだけムキになるんだ。余程の屈辱を受けたに違いない。
「……ああ、あれね」
「すまない」
「いや、多串君が誤る意味が分かんないんですけどー?」
銀時がクスクスと笑っている。すると、俺の腕の中に収まって頭を預けてきた。
この甘い香り、柔らかな頬に白い肌。全てが安心する。
「ちょ、ドコ触ってんの?!」
「……消毒だ」
「はあ?」
「コレは俺のモンなんだ。気安く触れる代物じゃねー」
何に対しても無関心で無頓着で、恋人の俺を恋人と思っているのか時折不安になるほどだ。
だから俺自身が決めれば良い。銀時の中にある真っ白なスペースに俺と言うモノを埋め込んで。
「……プッ。はいはい土方君の言う通り。触る事を許したの多串くんだけだから」
「ここだけじゃねぇ。コレもコレも、ココも。全部俺だけのだ」
「はいはい。そうだね」
銀時は優しく俺の頭を撫でてきた。
守るのは俺の方なのに守られる感覚。これが不思議と嫌じゃねぇ。寧ろこのまま身を委ねたくなるほど。
「もっと良く見せてくれ……俺の、お前を」
「盛りですかコノヤロー。優しくしねぇーと承知しないからな」
「……上等」
End
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