「……面倒臭いなぁ」
そう呟いた男の顔に緩さは無かった。
ひんやりと冷たい、同じ背丈の筈なのに見下した視線。
「………嫌、だ」
絞り出した声。
か細く弱々しい印象を受けるのは、彼全体の雰囲気がそう見せてるに違いない。
「好いた人が見つかって良かったじゃん」
「………違う」
繰り返す同じ問答。
月の光を反射して、ユラリ艶めく銀髪を無造作に掻き散らす。
対面の男は手に持つ煙草を吹かすでも無く指に挟み、小刻みに震えてるのは決して夜風が冷たい訳では無いらしい。
「好きなんだ」
「もういいよ」
「本当だ……信じてくれ」
「だから、それが面倒だって言ってるだろ?」
視線も合わせずに言い放たれた言葉に、瞳一杯に溜まっていただけの涙が何本もの線を引いて地へと跡を作る。
ほんの小さな出来心。
でもそれは彼への愛が大き過ぎたため。
裏切っているつもりは無かった。確認したかっただけ。
俺の事を好いてくれているのか。
女と歩いてる姿を見て妬いてくれたら嬉しいと。
切なげに俯く瞳をみれたら、と。
確信が欲しかったんだ。
お前が俺に対して向ける愛とやらの確信を。
「ッ、……ぎん…とき」
引き止める声が出なかった。
その大切な存在は俺の懐からいとも容易く擦抜けて、振り替える事無く、無言で永久の別れを告げ去って行った。
「なんで………」
なんでこんな事になってしまったのだろう。
何も考えれない。
判らない。
―――ビュウッ。
不意に風が俺の脇を駆け抜けて行った。
その風圧に逆らえぬまま、俺の体は屑籠目掛け崩れて行った。
脇を通る人々が哀れみの目で俺を見る。
羞恥心なんて沸いてこない。
他人に構える思考は無くなっていた。
「………ぎ……ん」
空を見上げる。
やはり何も感じない。
このまま世界が終わってしまえばいいのに。
ああ、俺はどうなってしまうのだろう。
End
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