アイツは初めて出会った時から印象の強い奴だった。

他に例を見ない透き通る銀髪、血を思い出させる深紅の瞳。
刃を向けられたにも関わらず、死んだ魚の様なまなざしを俺に向けて。

何もかもが印象的で存在に神秘を覚え、余す所なく俺の脳に焼付いたんだ。

俺と同じモノ付いてる奴に何故心臓を鷲掴みされたのかを考える



奴と初めて会ったのは、攘夷志士を追って池田屋に乗り込んだ時。
その次が、近藤さんの恋敵を探し遭遇した屋根の上。

どちらも不意に訪れた対面で、目に焼付くのは人外と言ってもいい色素の事だけ。

それでも、俺にとっては十分過ぎる情報なんだ。



何故こうも奴の事が気になるのか考えれば考えるほど仕事が手に付かず、かと言って判りませんでしたと安易に消せる程簡単な問題では無い。

負けた悔しさか……いや俺は負けてねえ。ならば刃を折られた屈辱か……いやいやあれは当り所が悪かっただけだ。

何処をどう変換しても納得のいく答えは見つからなかった。





「死ね土方」





巡回中に後方から悪魔の呪文が聞こえる。
考えに耽っていたので体と脳の連結に時間が掛かってしまった。

「うおッ?!」

俺が振り返ると同時に視界を塞ぐ黒い筒から爆音と共に砲を放たれた。鼻に衝く火薬の匂いに顔を顰める。そして直ぐ様その発信源の男を睨み付け牙を向けた。

「総悟ォォォォォォ!!」
「おや?死ななかったんですかぃ土方コノヤロー」

飄々とした顔でバズーカーを肩に担ぎ明後日の方向を見据える悪魔。あと数センチで俺の頭は吹き飛んでいた。ミリ単位も反省の姿勢を見せない沖田に今度こそ決着をつけようと腰に手を回した……そんな時、

「もしもーし。天下の大通りで大砲やら刀やら、流石の真選組でも物騒すぎるんじゃない?」

忘れる筈も無い、あの覇気の無い声。弾かれる様に顔を上げれば案の定、その人物が頭を掻きながらこちらを見ていた。

「おっと、旦那すまねえ。道の真ん中に塵を見つけやしてね、その排除に手間取ってしまったんでぃ」
「誰が塵ダァァァァァ!!」
「お!塵がしゃべりやがった」
「総悟っテメェ叩っ斬ってやる!」

再度勃発した下らない言い争いに、近辺にいた一般人は逃げる様に建物の中へと逃げ込んでいった。

「はいはい。そこまで!銀さんお腹減っちゃったよ」
「テメーの腹の具合なんて知るかァァァ!!」

その場の勢いで発した言葉。それを後悔するなんて思いもしなかった。

「忘れる所だったぜぃ!旦那急ぎやしょう」
「忘れないでくれる?銀さんにとっては昼飯抜きは死活問題なの!」
「本当にすまねぇ。全てはこの塵のせいでさぁ。死ね土方」

たまたま近くに居ただけなんじゃないのか?何?一緒に飯食うってどんな仲だよ。お前、今まで万事屋の話に一切触れなかっただろーが……。

「真選組にそんな暇はねえ」
「……多串くんだっけ?」
「土方だ」

憶えられていた様な憶えられてない様な。ジリジリと競り上がる感覚に、つい衝き跳ねた感じで言葉を被せてしまった。

「誰もアンタなんか誘ってねーですぜぃ」
「うるせーよ。とにかく今日は忙しいんだ!遊んでる暇は無いだろ!」
「でも近藤さんには許可貰いやしたけどねぃ」
「……ッ!」

想定外の台詞にギリギリと奥歯を噛む。
そもそも何故こんなにも必死になってるのか判らない。判らないけど、このまま奴等を野放しには出来ねえ。

「いいから総悟は屯所に戻れ」
「嫌でぃ」
「戻れ」

二人の視線が痛い。同時に、心も。

「沖田くん、今日はキャンセルっつー事で」
「旦那?!こんなマヨネーズに蝕まれた様な奴の言う事聞くことありやせんぜ!」
「まーまー。昼は明日もあるから。ね?」
「………判りやした」
「ごめんね」
「本気で死ね土方コノヤロー」

去り際に悪態を吐いて、沖田は襟を返し屯所へと戻って行った。理不尽な事を言ったのは百も承知。俺はその背中を見届ける事もできず下を向いたまま時間だけが過ぎていった。





「多串くん?」
「多串じゃねー。何度も言わせんな土方だ土方!」

憶えてもらいたくて、必要以上に自分の名前を告げる。
格好悪いとかそんな事忘れていた。心の何処かで必死な俺が居る。それに気付いても、止める術を俺は知らない。

こんな俺が俺じゃない感覚は生まれて初めてだ。

「多串くんさー……」
「テメッ、ワザとだろ」

「………俺のこと好きなの?」
「ッッ?!好きって何で俺がッ――――――!」

……ちょっと待て。いやいや待ってくれ。そんな筈無いだろ……好きって何だよ。俺はただ奴の行動が気に食わなくて、無性に腹が立って……って、なんで万事屋が総悟と一緒に居ただけで腹立つんだよ。


これじゃまるで……まるで…………。


「おーい、多串くーん?」
「…………い」
「なに?何か言い残す事あんの?」
「好きならしい……」
「何が」
「俺が、お前を」

俺の頭の中ではまだ整理なんてついてない。だが、言えばすんなりと出るものだ。

「へぇ、そうなんだ」

すると万事屋からは素っ気無い返事。これは如何捕らえればいい?

「万事屋…驚かないのか?」
「別に。だって多串くんの態度判りやすいんだもん」
「……そうか」
「そうだろ。ったく、友達になりたいならなりたいって素直に言えば良いんだよ。恥かしがりなマヨネーズめ」
「ッ、友達?!」

俺の気持ちを完全に勘違いしやがった万事屋は、俺が本当の気持ちを言い切る前に人込みの中へと姿を消した。

「馬鹿野郎が……」

まあ、この悶々とした霧が晴れただけ良しとしよう。
次に会った時は俺の気持ちを聞いてもらう。逃がしはしねえ。きっちりと白黒つけてもらおうじゃねーの。

End


これからこれから。

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