「銀時、お前のファーストキスって何時だったんだ?」

ファーストキス



これと言ってすることも無かったので、暇潰しにと映画館に行ったときだった。
上映時間ギリギリにチケットを購入して中に入ろうかなって時に多串君とバッタリ鉢合わせ。
どうせだからと一緒に映画を見て、帰りに甘味食べに行くかって事になって今に至る。

「なんだよ突然」
「いや、映画でそんな話ししてたからよ。お前はどうなのかなって思ったら確認したくなった」

確かに、今見た映画は純愛も純愛な角砂糖みたいな恋愛ストーリーだった。
こんな酸いも甘いも知り尽くしたオヤジ二人が見た所で何の感動も無いと思っていたのに。
忘れてたよ。多串君の心はピュアなんだった。ペドロで泣ける位だもんね、純粋なんだもんね。

「そんな事聞いてどうすんのさ」
「別にどうもしねーけどよ、気になったもんは仕方ねーだろ」

運ばれてきたビックサイズのイチゴパフェをスプーンで突きながら、俺は遠い記憶を頭に蘇らせていた。















『おい銀時、何時までそこに座ってるつもりだ』
『別に』

広い草原に不釣合いな岩石。
そこに銀糸を靡かせ遠くを見詰める少年が一人。
そして、その岩の下には眉を顰めながら不貞腐れる少年がもう一人。

『先生が心配してる』
『高杉だけ戻ればいいじゃん』
『人の親切を無駄にすると罰が当たんだぞ』
『別に怖くないし』

何を言ってもビクリとも動かない背中に、高杉は大袈裟な溜息を浴びせかけた。
そんな音を聞こえぬ振りで、銀時は相変わらず空を見上げて何やら想いを馳せている。

『ん?』

布擦れの音がしたと視線をやれば、高杉は相変わらずの仏頂面で岩をよじ登り、何食わぬ顔で横に座った。

『ちょ、狭いって』
『少しずれればいいだろ』
『お前が来なけりゃいいだけだから』
『俺も空を見たくなったんだ』
『下で見りゃいいじゃん』
『少しでも高い位置の方が空が近付いていいだろ?』
『まあ、そうだけど』

何だか腑に落ちない感じはするが、これ以上揉めた所でどうにもならないので文句を言うのは止めた。
二人肩を並べて空を見上げ、何かを話すでもなく時間は過ぎて行く。

『あ、』

突然、高杉は間の抜けた声を出し自らの手を見詰めた。
それに反応した銀時も、高杉同様その手の中を覗き込む。

『飴』

その小さな掌には、真っ赤な苺の飴が一つ握られていた。

『それどうしたの?』
『さっき先生から貰った』
『何で高杉だけ?俺のは?』
『お前、さっき呼んだけど来なかったじゃないか』
『えー……』

明らかな落胆を見せる銀時に高杉は何やら思いついたのか、一つ人の悪い笑みを見せ銀時の顔を覗き込んだ。

『欲しいか?』
『くれるの?』
『まさか』

パクッ!

『あー!俺の飴がー!』
『何でだよ。コレは俺が先生から貰ったもんだって』
『……酷い』
『俺の親切を無にした罰だ』
『意地悪』

頬を膨らまし怒りを表現する銀時に、高杉は何やら目を見開く。

『……やる』
『え?』
『飴、お前にやるよ』
『もう一個あるの?』

コロリと変わる表情。
喜怒哀楽がこれほど激しい子供も珍しい。

『目ぇ閉じて』
『うん』

―――カラン、

『……!』

突然舞い込んだ甘い味。
口の中に感じる、少しだけ溶けた飴の形。
そして、今まで感じたことの無い柔らかな感触。

『これ……』
『だからお前にやるって言っただろ』

少しだけ乱暴に言葉を吐き出して、高杉は素早い動きで岩から飛び降り駆けて行く。

『恥ずかしいなら食べちゃえば良かったのに』

一人残された銀時。
そう良いながらも、その顔には幸せそうな笑みが零れ落ちていた。















「あー、思い出した」
「へえ」

土方は興味津々に視線を向ける。

「ファーストキスはねぇ……」
「ああ」

「苺、かな」

「いちご?」
「そう、苺味の飴」

言ってる意味が判らないのは判る。
かわいそうな奴だって哀れんでるのも判る。

でも、本当なんだから仕方が無い。

目を瞑ってたら苺が舞い込んできたのだ。
柔らかくて暖かい口付けをしながら、ゆっくりと慎重に。

「銀さんにとっては珍しい、良い思い出かな」

もう二度と戻る事の無い、あの時代の二人。
お前もまだ覚えてくれているのだろうか。

今度出合ったら聞いてみようかな、なんて。
きっとそんな事憶えてないって言われるだろうけど。

End



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