表現なんて人それぞれ。
皆が同じ行動とったら怖いよな。

判ってるはずなのに、判ろうとしなかった自分。

コイツにはコイツなりの、
俺には俺なりの、


表現方法ってものがあったんだ。

君が僕の知らない名を呼ぶから、僕が君の声を塞ぐよ



「多串くんじゃん……こんな真っ昼間からどーしたの?」

万事屋に会うのは久方振り。ざっと考えても二週間は有に超えていた。

「やっと仕事にかたがついてな」

なんて。
本当は今も仕事の真っ最中。でも会いたかったんだ。我慢したぞ、これでも。
そんな事は言わなくても気付いてるであろう万事屋は、いつもの捩くれた言葉も投げず笑顔を見せた。

「コーヒーきらしてんだ。お茶で良い?」
「ああ」

そう言いながら、適当に履いたらしい草履を脱ぎ部屋の奥へと戻って行く。
俺も慣れたもので、黙って後に続いた。










「ちゃんと寝てんの?」

俺の前に淹れたての茶を置き、次に自分の前へとそれを置く。
目の下のクマ凄いよ?とか言いながら、万事屋はソファーに腰掛けた。

「夜間に動く事が多くてな。昼間は落ち着いて寝れもしねぇ」
「ふーん」

ズズ……。茶を啜りながら、どこか上の空な返事。
興味ないなら質問すんなよとか思いながら、いやいや待て、自分に興味ないなんて悲しいだろとツッコミを入れてみたり。

「そっちは仕事あんのか?」
「ん〜……無いけどあるな」
「なんだよそれ」
「万事屋では無いけど、銀ちゃん個人の仕事はあるって言うかぁ」
「個人の仕事ぉ?何かヤバイ事に首突っ込んでんじゃねーだろーな」

眉間に目一杯皺を寄せて睨む。が、コイツはそんな虚勢にビビる様なたまじゃない。
案の定、俺の視線に気付きつつも見て見ぬふりを貫き通す。こいつの芯の通った人生観は好きだが、無意味なところでの一本筋はどうも頂けねぇ。

「なぁ、万事屋……ガキ共は?」
「ん〜……散歩?」
「散歩?って、ドコ行ったか知らねーのか?」
「うちは放任主義なんです〜」
「放任って……ったく…」

覇気の無い言葉に言葉を重ねるのも疲れたので、土方はそれ以上問答する事を諦め後ろ髪を勢い良く掻き毟った。

「相変わらず苛々してんのね」
「んだよ…文句あっか」
「別にぃー」

何も考えてない飄々とした風貌の奥。思慮深く繊細で、他人の腹ん中を見てる様な洞察力。
人を外見だけで判断するなとはよく言われるが、コイツは正にそれ。そしてその奥を見せようとしないのも、またコイツで。

最近思う事がある。
何度も目を瞑ってきた、桂との接触。どのような経緯で知り合ったのか不明だが、昨日今日の浅い付き合いでない事は見るからに分かる。
攘夷浪士との繋がりなんて信じたくないが、桂に対して見せる表情が万事屋のガキ共に見せる顔と違うのだ。

勿論、俺にも。
どちらが素の表情か……なんて考えるだけ無駄だと思う。聞いても答えないだろう。当の本人も気付いてるのかどうか。



不安。



最近の俺に付き纏う感情。以前は目の前の男を振り向かせるのに必死で考えもしなかった。
恋人同士になった今も、コイツは本当に俺を好いてくれているのか確信が持てない。





俺は奴の考えてる事が分からないんだ。





なのに万事屋は俺の思う事を見抜く様な一閃を向け、何言う訳でもないのに心の奥を開かせる。才能?天性?経験?どれをとっても俺には敵わないのだろう。悔しいとか惨めとか、そんな事考えるのはあの決闘した日以来止めた。

「寝てく?」
「あ?」
「ずっと寝てなかったんでしょ?ココ、屯所より全然静かだからさ。寝てったら?」

言うが早く布団の準備にか万事屋は襖の奥に消えていった。










ドサッ―――!

万年床と思われた布団もどうやら押入れに毎回収納されているらしい。それを定位置にしき終われば年寄りくさい溜息一つ、土方を呼びに行こうと立ち上がった。

「さてと………って……おわぁぁぁぁぁッッ!?」

ドサドサッ!!
布団なんて比じゃないほどの質量が畳へと転がる音。

「おおおッ多串くん?!」
「………抱きてぇ」
「駄目ですー!寝不足はお肌に大敵なんだぞ!」
「愛してる……」

腰元にしがみ付き顔を腹に埋める土方。何を言っても聞かないのは重々承知。今も考え直せと言えば言うほど腰に纏わりつく腕に力が篭る。

「ったく……」










天高く昇っていた太陽も既に傾き室内を薄暗く彩っていた。
布の擦れる音に掻き消されながら、弱く、弱く漏れる吐息と水音。

「………ん、」

何度も角度を変え、口を閉じる隙を与えない深い口付け。銀時の頬を伝う涎を舌先で掬い上げる様には、不覚にもドキリとさせられた。

暫くの間頬に宛がわれていた手がスルリと下に下り、衣服の隙間を縫い胸を弄る。

「ゃ、あっ……!」

敏感に立ち上がった胸の突起をぐりぐりと攻め立てられ、女のような甘ったるい声が室内に漏れる。その声に満足そうに弧を描く男の口。
首筋から耳裏まで舐め上げたと思えば、次には器用に服を脱がし始める。
一糸纏わぬ姿となった銀時をまた満足そうに見下ろして、再度首元に口付け。ピリッとした痛みをともなったと言う事は、きっと痕でも付けたのだろう。それを悪気も無く何箇所にも鏤める。

「そこ隠れない場所じゃん」

ムードなんてお構い無し。
銀時は唇と尖らせ、拗ねた様に上の男を見る。

「変な虫が寄らなくて良いじゃねーか」
「変な虫は多串君でしょ」
「俺は多串じゃねー。つか、虫でもねー」

銀時以上に拗ねてしまった土方は、再度首筋に顔を埋め真っ赤な花弁を落としてゆく。

「マジで……多串って誰だよ」
「ヒッ、ぁ……ッ!」

耳に噛み付く勢いで言葉を発し、同時に右手は股座を撫でる。
敏感に反応を示す銀時に満足げな笑みを溢し、更なる快楽を与えようと下着の奥で主張する陰茎を掴んだ。

既に蜜を溢れさせるそれ。
親指でグリグリと圧してやれば、鼻に掛かった甘い声がもっと欲しいとせがんでいる様。

「俺は誰だ?」

もう一度、重低音を響かた。

「なっ、やだ……ッ、多串…くん!」

わざとなんだろうな。わざとだと思いたい。
心底惚れた奴に名を呼んでもらえないなんて哀れで惨め。
コイツは適当に適当を重ねた様な男だから、今まで名に関しては深くは考えてこなかったけど。

お前は俺を好いているのか?
万事屋のガキ共や桂とか、マダオと称される男以上に俺を好きでいてくれてるのか?
俺の想い、今もまだ覚えてるのか?本当、お前は適当だから直ぐに人の言った事を忘れやがる。

「俺以外の男の名なんて呼ぶな」
「ぅ、んんッ…あぁッ」

もう、マジで苦しい。

「土方って言え」
「いぁッ……は、んッ」

俺の名を呼んでくれ。
好きなんだ。お前の事を本気で愛しちまった。

道端でばったり出会えば、会話なんて無くても安心できる。
会えなかった日はお前は何をしてるのかと気になって寝付けねぇ。

携帯片手に何度連絡を取ろうとしたことか。
でも仕事中に呆けるなんて。そんな事をしたら隊士に示しが付かないだろ?

書類整理は体外が真夜中。
一人の時間がその時。そんな遅い時間に電話を掛けるなんて非常識、到底出来ない。

俺の毎日はお前中心に回ってんだ。
好きだと告げれば返事を返したくせに連絡も寄こさねぇ。
どうせ、お前の中の俺なんてその他大勢と一緒の括りしかされてないんだろうよ。

「名を呼ぶまでイかせねぇ」

カタカタと小刻みに揺れだした体を確認し、俺は扱いていた手を止めた。

「ッ…ふざけ、んな」
「ふざけてねーよ。言えば済む話だろ?」
「ぜってぇー言わねぇ」

物欲しそうな顔。イきたいだろうに無理しやがって。
そこまでして頑なに拒む理由が判らない。俺達は恋人同なんだろ?そう思ってるのは俺だけか?

「お前は俺を好いてねーんだろ?」
「……は、何だよ…それ」
「俺ん中はお前で一杯なのにな」
「………おい」
「いい加減気付くっての」
「……この、クソ野郎オオォォォォッ!」

本気で蹴られた。しかも鳩尾。
俺は何が起きたのか判らなくて目をパチクリ。壁まで飛ばされて背がひんやりと冷たかった。

「お前だって呼んで無いだろ!」
「な、に……?」
「お前だって俺の事を万事屋ってしか呼んでねーじゃねーか!」
「え……」
「自分だけ呼んでもらおうなんじゃムシが良すぎねーか?」
「あ、いや……」

ハアハアと、衣服も纏っていない事なんてお構い無しに言葉をぶつけられた。
思い出す今日の会話。確かに、俺はお前の事を万事屋としか呼んでない。

「……万事、屋」
「なんだよ」
「銀時」
「だからなんだってんだ」

透通るような白い肌を薄紅に染め俺を見る。
そうさせたのは、俺。その色を見れるのも、俺だけ。

「呼んでくれ……俺の名」
「嫌だよ」
「土方って、お前の口から聞かせてくれ」

蹴られた鳩尾が歩く度に痛む。
でも、関係ないんだ。今はお前を抱き締めてぇ。この手の中にお前を閉じ込めてしまいたい。

「悪かった」
「判ればいいんだ」

素直に体重を預けるコイツが愛おしい。
そうだよ、何で今まで気付かなかったんだ。コイツはコイツなりの愛情表現してたじゃないか。
最初こそその一挙手一投足を逃さず見つけて幸せ噛み締めてただろうが。慣れがそうさせたのか、最近はそんな事を見てみぬ振りして一人勝手に拗ねてたんだ。

情けねえ。

「銀時、」
「はいはい」

一人拗ねてお前だけを悪者にして。
俺と言う奴は本当に酷え奴だ。

抱き締めた腕に重ねられる手。心地良い体温は紛れも無く俺に注がれるもの。

「好きだ」

再確認。
好きだ好きだと上辺だけを押し付けたって、コイツには判ってたんだ。
何も考えてない飄々とした風貌の奥。思慮深く繊細で、他人の腹ん中を見てる様な洞察力。判ってた筈じゃねーか。

ごめん。悪かった。
でも本当に好きなんだ。

「俺も好きだよ………土方」

待ち焦がれた台詞。
俺の頭の中は自分への戒めと共に、今お前が言った言葉を何度も何度も繰り返した。

End


自分中心ひじー。

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