俺は天パだからね、人の話なんて素直に聞けない。
でも多串君はサラサラストレートで、伝える言葉まで真っ直ぐだ。

ようは、俺の性格がひん曲がってんのは髪型のせいで、俺は単なる被害者だと言いたい訳よ。

髪型で人の性格は左右されるものなのか



ここ最近、土方からの誘いが無い。
毎回決まった様に決まった時間、決まった曜日にかかって来ていた電話。それがここ数週間全くといって無いのだ。

「まだ怒ってんのかな」

思い当たる節は無きにしも非ず。
と言うか、寧ろ有り過ぎて検討が付かない。

最後に聞いた声は酷く落胆したもの。





―――RRR…

『おい、まだ寝てんのか』
『えー何の事?』
『今日約束してただろうが』
『忘れてた』
『おい』
『でも半日も一緒に居れないんだろ?』
『……そうだけど』
『だったら今日はキャンセルで』
『ハァ?おい、ちょっ―――』
『バイバイ』





アレはやっぱマズかったか。
どうせ直ぐに掛け直してくるって思ったら放っておいたけど、結局はあれ以来奴からの連絡が途絶えたわけで。

「やっちまったかなー……」

まあ考えたって仕方ないし。と、ボサボサの髪を掻き上げ着流しに袖を通した。
何だかんだで気になるのでアイツに会って来ようと思います。別にアイツの気持ちを伺うとか、ご機嫌取ろうとかそんな事は断じて思ってないので。そこんとこヨロシク、なんてね。










屯所に行けば間違いなく会えるのだけど、そこは銀さんの芯を通るプライドが許さないので止めた。
次に有力なのが巡回に通るであろう歌舞伎町の大通り。

「旦那ぁー」
「よお、沖田くん」
「今日も相変わらずの別嬪でさァ」
「俺男なんだけど。格好良いにしてくんない?」
「格好良いなんて台詞、旦那には似合いやせん」
「もしもーし、何気に酷い事言ってるよ。気付いてる?わざとなの、ねえ」

思惑通り会えたは良いが、肝心の男が居ないではないか。

「多串君は?」
「土方さんですかぃ?奴は俺が成敗しやした」
「はいはい。で、多串君は?」
「酷いでさぁ。ちょっとは相手してくれてもいいじゃないですかぃ」
「今日の銀さんはそんな暇無いんです」
「そう言えば土方さんもここ最近書類整理に忙しそうですねぃ」
「そんなに事件多かったの?」
「全然平和でさぁ。土方さんは仕事が恋人みたいなもんだから仕方ありやせん」

仕事が恋人だなんて。
あくまで沖田くんの比喩した言葉だけど、わりと大きな棘が心臓に刺さったのは事実。
本当は俺を酷い奴だと呆れて、会うのも面倒になったからと部屋に篭ってるだけなのではないのか。

「旦那?」

沖田くんが心配そうな顔して見詰めてくる。
俺、余程な顔してんだろうな。そりゃ落ち込んでるから相応な顔しか出来ないんだけど。

「あ、」

俺を覗き込んでいた沖田くんの視線が不意に奥へと反れていった。
導かれる様にそちらへと顔を向ければ、先程聞いた書類整理に忙しいと言う話が作り話だったのではないかと思いたくなる光景に目を丸くする。

「ひじ……、」

何時もの着流しに吹かし煙草、目付きは相変わらずな釣り目で無表情。
そして、その外見に似合いな綺麗な女性を横に並べて大通りを練り歩く。

「土方さんも隅に置けない人でさぁ」

沖田くんは面白い場面を見てしまったと人の悪い笑みを見せ、反面に俺は面白くない場面を目撃して顔が引き攣る。

「ありゃデートですかねぃ」
「さ……さぁ…?」
「慌てて書類片付けてたのはあのお方の為だったりして」

沖田くんは俺達の関係を知らない。
だからなのか、好き放題言って俺の心を抉ってゆく。

眩暈がした。
同時に黒い何かが沸々と湧き上がる。

「最悪……」

口を衝いて出た言葉は酷く小さく空気に混ざり、横に居た沖田は聞き取る事が出来なかった。
それでも見上げた表情が曇っている事に眉を顰め伺うような視線を向けてきて。

「旦那?」

今は話しかけないで欲しい。
ジワジワと目頭が熱くなってきた。

「もう時間だから……」

あいつの事が好きなんだと再確認。
目の前で睦まじく並ぶ姿を見て嫉妬する自分が嫌だ。

「俺、行くわ」

最悪は自分に向けた言葉。
真っ直ぐに向けられた愛情を受け止める術が判らなくて逸らし続けた自分への言葉。

「パフェでも食べに行きやせんか?」
「え……」
「忙しいのに悪いんですが、そんな顔見せられたら放って置くなんて出来ないでさぁ」

何かに引っ張られる感覚に視線を落とせば、沖田くんの手が俺の袖を握り締めていた。
振り解いて帰っても良かったのに、この気持ちを理解してもらえるなんて思ってないのに、俺は小さく頷き差し出された手に手を添えていた。










「万事屋っ!」

沖田くんに手を引かれトボトボと歩いていたら、聞きたかったような聞きたくなかったような奴の声が飛んで来た。
チッ、とわざと大袈裟に舌打ちをした沖田くんが睨みをきかせるが、駆けて来た土方には大した効果は無かったようだ。

「総悟……巡回はどうした」
「今は休憩中でぃ」

肩で息をした土方が俺の横に着いた。
その顔は少しだけ悲しそうに伏せ気味で。

「二人で居るなんて珍しいじゃねーか」
「そんな事は無いですぜぃ。旦那とは何度も一緒してまさぁ」
「……何度も?」
「今日も一緒に甘味処に行くんでぃ。邪魔してんじゃねーぞ土方コノヤロー」
「そんな話聞いたことねーぞ」
「一々報告が必要で?」
「そうじゃないが……」

土方の視線が俺を射抜く。
答えなければならない事は重々承知ではあったが、頭の中は醜い嫉妬を隠すことで手一杯だった。

「昨日、約束したんでさぁ」

ヒラヒラと懐から出した携帯電話をチラつかせる。
これで約束したんだと言わんばかりに挑発的に。

「……沖田くん」

嘘に反応しないでくれと小さく目配せ。

「本当か?」

どうやら土方はそれに気付いていないらしい。
俺と沖田くんは約束を交わし一緒に居るのだと思い込んでいる。

視線が痛い。
裏切りだと言わんばかりに睨んでくる土方。
乱暴に煙草を吹かし苛立ちを発散させて、どうにか言葉を待とうとしていた。

「あんたが仕事仕事で辺りを見渡さないから気付かなかったんでしょう?」

何かを見透かしたような台詞。
弾かれた様に俺と土方は沖田くんへと視線を向ける。

「片寄りは止した方が為ですぜぃ?」
「総悟……」

ニヤリと弧を描いた口許は次の瞬間引き締められ、

「今日はこの位にしときまさぁ」

険しい顔をした土方の横を擦り抜けて行ってしまった。

「旦那ぁ、甘味処は明日にしやしょう。今日は用事を思い出したんで帰りまさぁ」

ヒラヒラと軽やかに手を振って、大通りに湧く人混みに紛れて行った。










「銀時」

二人っきりになった途端、土方は弱々しい声で俺の名を呼んだ。

「……なんだよ」

言いたい放題嘘を吐いて言った沖田くんが去った今、俺はどうしたらこの場の空気が変わるのかと頭をフル回転させる。

「総悟と……」
「携帯の事?」
「ああ」
「まぁ……嘘も方便ってやつ?」
「はあ?」

ゴチャゴチャ言い訳するのも面倒だったんで、素直に嘘でしたと告白した。
土方の表情は呆れたと言わなくても判る間抜け面。

「そんな事より、多串君ここに居ていいの?」
「何でだよ」
「綺麗な女の人と一緒に居たんでしょ?」
「女ぁ?」
「うん。横に並んで歩いてたじゃん」
「……見てたのか?」

ふぅ、と吐き出された紫煙。
それが事の話を誤魔化しているように取れて不愉快。

「面倒で悪かったな」
「銀時?」
「浮気するくらいなら縁切ってくれれば良かったのに」
「誰が何時浮気したってんだ」
「見てたのかって言ったのお前じゃん!見られたくなかったからなんだろ?」

柄にも無くムキになっている自分が恥ずかしい。けど、止まらない。

「馬鹿が」

もう一度、今度は強めに紫煙を吹き掛けられた。

「ありゃ勧誘の女だ。先日開店した飲み屋で働かないかってな」
「勧誘?」
「俺ぁ真選組で働いてんだって言ったら即行逃げて行きやがった」
「プッ。鬼の副長の面知らないなんてとんだ女だな」
「全くだ。働きが足りねぇのかもしれねぇ」

愉快そうに煙草を吹かす土方の態度に、いやいや違う俺は聞きたい事がまだあるんだと思い出した。

「書類整理に追われてたって沖田くんから聞いた」
「そうか」
「本当に仕事?」
「何が言いてぇんだ?」
「俺の事、面倒になって会いに来ないんだと思ってた」
「……お前は本当に馬鹿だな」
「馬鹿って……俺は真剣に聞いてんのに」

ここ最近俺の心や頭を占領していた事。
これを解決するまでは決して気分が晴れる事は無いと思う。

「少しの時間しか会えないのが駄目なんだと思ってよ」

土方は気恥ずかしそうに、それでもしっかりと目を見て言葉を繋ぐ。

「だから一緒の時間過ごせるように書類全部始末してきた」

それを聞いて思い出す、あの日電話越しに言った台詞。
何の事とも思わずに口にした言葉。

「それだけの事で……」
「俺にとっては十分な活力になった」

目の前が霞む。
ジンワリと込み上げるこの暖かなものは何か。

「流石に一週間の休暇は無理だったけどな」

ああ、俺はとんだ餓鬼だななんて自嘲。
思い通りに行かなくて歯がゆくて、あげく今だってその言葉を素直に聞こうとはしない。

「銀時?」

心配そうに俺へと差し伸べられる大きな掌。

「ちょ、触んなって」
「んだよ、こっちはテメーの為に必死になって仕事片付けたってのに」

咄嗟に出た言葉に不愉快そうに眉を顰める土方。
それでも楽しそうに見えるのは気のせいか。

「嘘吐き。別れようと距離置いたくせに」

本当はそんな事思っても無いのに。
違うって心が叫んでも、俺の口は勝手に可愛げの無い言葉を繰り返す。

「ざけんな。テメッそりゃ冗談でも聞き捨てならねーぞ」
「ふん、図星なんだろ。だからキレるんだ」

ゴメンゴメン、本当は嬉しいんだ。
お前の気持ちが真っ直ぐすぎて上手く受け止められない。

「ったく、泣きそうな面で悪態吐かれたら文句の一つも言えやしねぇ」

そう言うと、土方は吸いかけの煙草を地面に落としもみ消して、俺へと向き直ったと思いきや両手を広げて柔らかな笑みを見せた。

「おいで、銀時」

止めろよそんな恥ずかしい台詞。
俺はそこら辺の女子供と違うんだ。一緒にされちゃ困るんだよ。

だから、その手の中に飛び込もうなんて思わない。
その広い胸に抱き締めてもらいたいだなんて絶対に思わない。

「……ッ!」

見ない様にそっぽを向いてたら、力任せに引き寄せられた。
当然、そんな事をされりゃ俺の体は土方の懐目掛けダイブする寸法で。

「やっと来やがったな」
「お前が寄せたんだろ」
「嫌か?」
「嫌」
「だったら抜け出せばいいだろ」

意地悪く、背中に回していた手を離した。

「……動くの面倒だからこのままでいい」
「素直じゃねーな」
「天パで悪かったな」
「誰がそんな事言ったよ」
「性格は髪形に出るって言うだろ?だから、銀さんが素直じゃないのはこの天パのせいなんですぅ」
「ったく、言い訳まで捩くれてやがる」
「そりゃどーも」

離れない様にがっしりと服を握り締めてやった。
ハア、と小さな溜息の後に土方の腕がゆっくりと背中に回されて、そして力強く抱き締めてくれた。

「なあ、折角3日間休暇をもらったんだ」
「うん」
「どっか行きたい所ねーのかよ」
「行きたい所……?」
「そうだ。海でも山でも温泉でもホテルでも何処でもいいぞ」

何処でもいいといわれても。
考えようとは思うけど、土方が優しい手付きで頭を撫でてくるもんだから、思考が勝手にまどろんでしまう。

ああ、何も考えたくない。
今が一番幸せなんだ。

幸せ。

「あ、」
「どうした?」
「行きたい所決まった」
「何処だ?」

「ココ」

「は?」
「だから、ココ」
「此処って」

トントンと銀時の指差すもの、それは、

「俺の………胸?」
「そう。3日間、土方の胸の中で蹲ってたい」

チラリと表情を伺えば、真っ赤な顔をした土方が口をパクパクさせて俺を見て。

「じょ、上等だ」
「うん?」
「嫌だっつっても放してやんねーからな」

そして、更に力強く俺を抱き締めてくれた。

「望むところだ」

やっぱり髪型と性格は関係あると思う。
だって、土方が撫でてくれた髪は今真っ直ぐになってるから。だから素直に言えたんだろーなーって幸せに満ちた頭で考えてみた。

End


素直じゃない銀さんを受け止めてくれるのは土方だけだと思う。

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