「総悟とメシ食いに行けて、俺が駄目な理由なんて無いだろ?」
そう吐き捨てて万事屋の前に仁王立ちする男、真撰組副長の土方十四郎。
昼には到底早過ぎる、今は早朝。
ガンガンと戸を叩かれ眠気眼を擦りながら出迎えればあの一声。
仏頂面に吹かし煙草、地声なのかドスの利いた低音で言われれば、無意識にも一歩二歩と距離を置いてしまう。
「……あのさ、今何時か知ってる?」
「7時半を回った頃だ」
「そんな時間に何食うってんだよ?朝飯ですかコノヤロー」
「仕事終わったのが今なんだよ」
………ビックリした。だっておかしいだろ?何?仕事終わったのが今って、誰を基準に話しちゃってんのォォォ?!
「多串くん、銀さんは眠いの。お腹減ってるなら沖田くん誘ったらどーよ」
「お前と飯食いたいんだ」
馬鹿ですか、ああそうか多串くんはマヨネーズとニコチンに蝕まれた痛い痛いな人だった。
そんな所が可愛いなんて思ってたけど………ん〜、やっぱ可愛いかな。
「判ったよ。今着替えて来るから待ってて」
大袈裟に溜め息を吐いて見せて、俺は甚平から着流しへ着替えようと部屋の中へ戻って行った。
多串くんは大人しく玄関で待ってると思ったのに。
「……もしもーし」
羞恥心というか、いたたまれないと言うか……。
寝室に入ってさあ着替えようとした時、不意に視線を感じ動きを止めた。神楽でも起きたかなと思ったけど、その突き刺さる様な視線は彼女のものではない。
つまり、
「男の着替えを見て楽しいですか?金払って貰うぞコノヤロー」
「気にするな」
居間と寝室の間を隔てる襖に寄り掛かり、こちらを伺う視線。
見られて減るもんじゃないけど、良い気分はしない。
「……好きだって信じてくんねーのか?」
黙々と着替えを済ませていると、ごく小さな声で奴が呟いた。
「何だって?」
俺は聞こえないふりをして聞き返す。
「テメーと友達になる気はねぇっつー事だ」
「……じゃあ、何になりたいんだよ」
「恋人」
知ってたんだ。アイツが俺に対してどういう感情を抱えているのか。
あの目を見て気付かない筈が無い。いや、普通は気付かないものだろうか。
でも一緒なんだ……アイツが俺に向ける視線と、奴が俺に向ける視線とが。
「ごめん無理」
「ッ……!」
ここまで言わせておいて酷い奴だと思う。
確かめたかった。確かにその通りだ。でも答えは判っていた筈だろ?お前には………、
「俺、気になる奴居るんだ」
「……総悟か?」
「沖田くんは……友達?」
「じゃあ誰なんだよ」
誰だろうね。俺にも判らない。
「多串くんの知らない人、かな」
背を向けたままだった体制をクルリと向き直し、改めて襖の前に陣取る男を見やる。その表情は納得いかないと直に伝えているようで。
「俺じゃ駄目なのかよ」
駄目なのかな。如何なんだろ。
そうやって悲しい顔されると、自分まで辛くなる。笑った顔が見たいとかそんな乙女チックな事思わないけど、でも俺の為に泣くのは止めてほしい。
「……多串くんってさ、泣き虫なんだね」
言われるまで気付かなかったらしい。慌てて頬を伝う雫を無造作に拭い、気まずさから横を向く顔。
男に母性なんてあるとは思わないが、あるとしたならこの気持ちがそうなのだろう。悲しげに無く愛おしい存在を抱き締めずにはいられない。
好きと言う気持ちは未だ味わった事がないから判らないけど、少しだけ側に寄っても良いかなって。力抜ける相手ってのも必要だしな。
「ッ―――!万事屋?!」
男を抱き締めるなんて久し振り。奴とは違う、鍛え抜かれた体。
当然、俺の行動に驚いた多串くんは手のやり所に困り焦っている。ああー可愛いなー。コイツなら俺に好きって気持ち教えてくれるだろうか。
「嘘だよ」
「え?」
「気になる奴さ、居るなんて嘘」
「ほ、本当か?」
「恋人とか好きとか、俺いまいち判んなくてさ。だから多串くん教えてよ」
触れるか触れないかだった背中の手に力が篭る。暖かい体温に張詰めていた何かが緩んだ。
これでいい。変わりたい。大切な何かを手に入れたい。間違ってないよね?お前が与えてくれなかったモノ、こいつなら惜しみなく注いでくれそうだから。
「……ああ、いくらでも教えてやる」
ほらね。こんな優しい奴なんて初めてだ。
End
銀ちゃん最後まで多串くんと言い張りましたv
これが私的、土銀の基本です。土→銀→?です。
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