万事屋の家計は火の車。
いやいや、火の車なんてまだあまい。灼熱、轟炎、焼け野原。何が言いたいのかさっぱりだろうけど、つまりはそう言う事。

大変なんだよ、色々とさ。

胃拡張娘に巨大犬の餌、勤勉少年の社交費と言う名の追っかけ費。
俺だって毎日甘いもん取らないと気が狂いそうだって言うのに、それを削ってでも残らない、寧ろ底を抉る勢いの生活費。

養うって大変だな。
勝手に居ついた餓鬼共だけど、放っておく訳にもいかない訳だし。家族って未だによく判らないけど、そう思って慕ってくれるのは正直嬉しい。

家族だから、守りたいし守らなくてはいけない。
言っておくけど、簡単なようで難しいからね、コレ。

暖かな家庭をお望みですか?



「あらー久し振りね」
「よ、アゴ美元気してたか?」
「ちょっとー、その呼び名止めてって言ってるでしょ!」

俗世界から懸け離れた雰囲気のここは、歌舞伎町でも有名な『かまっ子クラブ』異様な空気と熱気に包まれ夜を待つ妖怪が所狭しと蠢いている。
まぁ俺もその中の一人なのだが、今日はそんな事グダグダ言ってる暇はねぇ。早く稼いで糖分を取らないと気が狂いそうなんだ。餓鬼共も俺に襲い掛かる一歩手前。危ないよコレ。本当に殺るからね、あいつら。

「丁度声掛けようと思ってた所だったから良かったわ」
「マジでか」

奥の部屋から出てきた西郷に軽く会釈しながら、銀時はどうせ呼ばれるなら無理にお願いしに来なければ良かったなんて心中不貞腐れる。だって、給料以外に依頼料が貰えるんだからね。

「今日は幕府の偉い様がお目見えするのよ」
「へー、こんな肥溜めによくもまー…――――」

―――ドゴンッ!

「オカマなめんじゃねーぞ」
「………スイマセン」










開店準備に齷齪すれば、時間はあっという間に夜の蝶が舞う頃。
最終確認を終え、各自身支度に向かう。銀時も同様、パー子へと変身すべく部屋に篭った。

ピピピッ――、

懐に仕舞っていた携帯の振動に驚き、紅が微妙に伸びてしまった。
少々ムッとしながらもそれを手に取り液晶を覗く。新着メールが一件と中央に堂々と書かれ、送り主なんて誰だと考える事もせず内容を確認。

『仕事で今日は行けそうに無い』

宛名に土方の二文字。
この携帯を自分に寄越したのは土方本人。このアドレスを知っているのも土方のみ。つまりは、連絡のつきにくい俺を拘束する為の小道具を持たされてるって事だ。
面倒だからと無視を決めれば後々厄介な事になる。これはもう学習済み。奴が納得いくまで尋問尋問の日々。下手すりゃ拷問付きで体がもたない。

『判った』

簡単に返事を書いて返信。
そして、再度化粧に取り掛かり銀時からパー子へと変身を成し遂げた。










開店と共に西郷曰くお偉いさん達がゾロゾロと入店してきた。
今日は貸し切りならしく、こいつ等の相手も終れば帰れるらしい。

「あら、素敵なお方だこと」

アゴ美が何やら気に入りを見つけたらしい。嬉しそうに尻尾を振りその男の元へ駆ける。

「……マジですか」

俺の目の前には土方の顰めっ面。沖田くんとゴリの間にチラホラ見えるだけなので、あっちから此方は見えないらしい。
そうだった。幕府の官僚が来るなら護衛も必要ってもんだ。対テロ集団ってだけあって腕っ節の良いのばかり揃う真選組は官僚の遊びに付き合わされることも少なくないと聞いていた。

「怖い顔して……」

アゴ美のアプローチのせいか、遊びの護衛を任された事か、土方の機嫌は頗る悪いらしい。いつも以上に眉間に皺を寄せ、口数も少なく、目付きも最悪。
そう思いながら見詰めていたら、ふいに土方が自分の方へと視線を向けてきた。ヤバイと思って咄嗟に視線を逸らし、もう一度戻す。
次に見たときには土方はゴリと何やら会話をしていて、直ぐに外へと出て行ってしまった。










「パー子ちゃん呑んでるー?」
「やだー止めて下さーい。セクハラなんてしたら腕折りますよー?」
「同じ男同士じゃないか、な、いいだろ?」
「ダ、メ、ですぅー。心は乙女なんだからお触り禁止」

最高のスマイルをお見舞いしながら、心の中で早くくたばれと呪文を唱える。
お金の為お金の為。そうだよ、世の中所詮金なんだ。金がないと何も出来ない。で、その金持ってんのがこのオヤジ共。身包み剥がす勢いで飲ませて酔わせてさっさと帰ってくれないか。

「―――ッ!」

ニコニコとヘラヘラと笑っていたら、最初から俺の横をキープし続けているオヤジ……多分、この中では一番偉いであろう奴に股座を弄られた。
ご丁寧に着物の割れ目に指を這わせ、同じ男の太股を鼻の下伸ばして眺めて。気持ち悪い気持ち悪い何なの一体。

「以前通り過ぎた時に君を見かけてね」

ハァハァと酒臭い息を漏らし俺の頬に手を添える。ああ、だから俺を呼ぼうとした訳ね。先ほど西郷が言った言葉を漸く理解した。

「いやん、嬉しいですー。でも、お触りは禁、止」
「金は幾らでも出すぞ」
「………ははは」

ヤベー笑えねーよコレ。殴っていい?殴り倒して良いよね?
何でこんな変態オヤジが金持ってて、毎日必死に生きてる俺に金が廻って来ないの?偉そうに踏ん反り返るしか能が無いくせに……





ドガーーーンッ!





軽やかなメロディーが流れる店内に突如聞こえた爆音。
それは外から、しかも直ぐ側で。音からして真選組ご愛用の大砲だろう。

「―――ッ何事だ!?」

無様に腰を引いて辺りを見渡す能無し官僚共。
ドタドタと真選組隊士等が店内に雪崩れ込んできて、オヤジ共は縋る様に後ろへと隠れていった。

「攘夷浪士が現れました。現在追跡中ですが何時戻るや知れません」
「わわわ、判った。く、くく車を出せッ」

冷や汗タラタラに出て行って、残されたオカマの面々。
誰も居なくなった店内にゆっくりと近藤が入ってきて料金を支払う。ご迷惑を掛けましたなんて謝る姿は、ああ立派な隊長だななんて見直すほど。
多串くんの姿が無いって事は先頭きって追跡でもしてるのだろうか。どうか、無事に帰ってきますようになんて乙女チックに考えてみたり。

「お偉い方のお守も大変そうね」
「それで金貰ってんだから当然だろ」
「シビアね。あ、今日はもう終わりだから帰っていいわよ」

西郷が懐から金の入った封筒を差し出す。あれ、何時もより多くね?なんて言ったら、依頼料も入ってるからねなんて言われた。

「依頼もクソも、俺がお願いして来たのに」
「まあ、今度何かあったときの為に取っときなさい」
「何かって怖えーな。ま、そん時は無償で駆け付けてやんよ」















荒れ放題の店内を後にして、化粧も着物も脱ぎ捨てた銀時は一人静かに繁華街の騒音から抜け出す。
辺りに点々と真選組隊士が見られると言う事は、まだ攘夷浪士が見つからないのだろう。大変ね、幕吏なんて居なけりゃこんな苦労もしなくていいだろうに……って、これじゃ桂や高杉と変わんねーじゃねーか。一人突っ込みながら家路を急ぐ。

「そういや神楽は新八の家行くっつてたな」

今家に帰っても誰も居ないのか。いや、一人なんて慣れてんだけどね。慣れてっけど、帰りたくないな。
あの様子じゃ多串君も来れそうに無いし……、
怪我はしてないだろうか。会いたい。今日は一度も声聞いてない。メール機能とやらは嫌なものだ。会わなくても、面を会わせなくても会話が出来るんだから。

「銀時」

不意に名を呼ばれ弾かれた様に顔を上げた。
そこにはたった今会いたいと願った男の姿。豪快に紫煙を吐き出し、短くなった煙草を落としもみ消す。
その一部始終を見詰めて、視線を男に戻した。

瞳孔開き気味の瞳。
無表情な口許。

かまっ子クラブで見た顔と同じなのに同じじゃない。
この表情は俺だけに見せる俺だけの顔。会いたかった。
女々しいな。オカマの格好してたからだろうか。何にせよ今頗る嬉しい。

「やっと仕事の片が付いた」
「お疲れさん」
「お前も、だろ?」
「……知ってたんだ」

片眉をピクリとさせ、驚いた様な詰まらない様な顔。
それを見ながら土方は愉快そうに口許を歪め、懐から取り出した煙草に火を点ける。

「攘夷浪士、アレ嘘だ」
「はぁ?」
「総悟も予定が有ったらしくて、結託した」
「……最低だな」

人が折角心配して無事に帰って来ます様にって乙女な願いもしたと言うのに。

「浮気したお前が悪い」

当然の様な表情で土方が銀時目掛けて紫煙を吹きかける。
目の前に雲がかかって序でに臭い。何すんだよと睨んでも、土方の口許は弧を描いたまま。

「浮気なんてした憶えねーし」
「オヤジに良い様にされてたじゃねーか」
「アレは仕事で」
「んな仕事すんな」

心配なのか嫉妬なのか知らないが、こっちの気も知らずに言い除ける土方に少々ムッとする。

「パフェでも何でも幾らでも食わせてやる」
「……は?」
「テメーの事は俺が養ってやる。餓鬼共だけなら今まで通りやってけるだろ?」
「何だよ、それ」
「なんなら万事屋全部面倒見てやってもいい」

ビックリだ。開いた口が塞がらないとはこの事か。
養うって……プロポーズですか、恥ずかしい。誰か聞いてたらどうしてくれる。恥ずかしくて明日からお天道様が拝めなくなってしまうだろーが。

「自分達の事は自分達で如何にかしますー」
「甘いもん好きなくせに甘えんの嫌いだよな、本当」
「笑えないから」

ああ、恥ずかしい恥ずかしい。
この場の空気が居た堪れなくて、俺は早足で万事屋へと駆け込んだ。
背中越しに多串くんの笑い声が聞こえた気がした。何か負けた気分で悔しい。

「面倒みるって……意味判って言ってんのかコノヤロー」

今鏡を見たらきっと茹蛸の自分が居るのだろう。
ああ、恥ずかしい恥ずかしい。










ピピピッ―――










懐の携帯が鳴った。
心臓が飛び出るほどビックリした自分にビックリした。
これじゃ完全に乙女まっしぐらじゃねーか。土方の笑う姿が想像できる。

『愛してる』

照らされた画面に何度も聞かされた言葉。
やめろよ本当恥ずかしい。心臓がドクドク煩いし、あー嫌だ。
メール機能に感謝だな。こんなの面と向かって言われたら取り乱してまた笑われるに決まってる。

『俺も』

手が勝手にボタンを押して返信した。俺じゃない、俺じゃないんだ。勘違いすんなよ多串君。
俺に屈辱を合わせたテメーを一生許さねーから。一生離れないから。迷惑がるテメーを嘲笑ってやる。

取り敢えずは明日、早速甘味を奢って貰おう。
面倒見るって言った言葉の重み、しかと思い知ればいい。

End


男前な多串くんもたまにはいいかなと。
いやー、乙女な銀さんは読むの好きだけど書くのは苦手だなー

<< Back