「日番谷く〜ん!」
「ギ〜ン!」
時刻は丁度昼を回った頃、市丸と日番谷は聞き慣れない声に一斉に振り返る。
「……雛森」
「……乱菊」
声の主は、お互いの幼馴染。
執務室の前に陣取り不適に笑っていた。
「なんやねん、気持ち悪い声出して…」
市丸は警戒心で表情を固め、目の前の幼馴染をみやる。
日番谷も同じく訝しげに眺めているが、ただ静かに傍観を決めていて。
「気持ち悪いって…あんた、言葉には気を付けた方が良いわよ?」
女性に対する口の聞き方を弁えない市丸に、松本の据わった目が真っ直ぐに光る。
「……すんません」
長い付き合いからか、僅かな変化にも敏感に反応する市丸に日番谷は呆れた視線を送っていた。
少々肩身の狭くなった市丸を置いて、漸くここの隊主の日番谷が口を開く。
「ところで、用件は何だ?」
問えば入り口に立つ二人の女は互いを見合わせほくそ笑んで。
「さすが隊長!」
「いいから早くしろっ」
「まぁまぁ、シロちゃん話すから…ね?」
「ね?じゃねーよ。それから、シロちゃんて言うな!」
「はいはい」
何だか騒がしくなってきたこの場の雰囲気に、一人取り残された男。
「ちょぉっっ、僕も混ぜてや!」
「市丸っ抱きつくな」
「嫌や〜混ぜて〜!」
「止めっ…やだ、そこっ!」
突然、日番谷は身を縮め、何かを拒むようにモジモジと落ち着きが無くなった。顔が朱に染まり始めたのは見間違いでは無い筈。
「あれ、冬…感じてもうた?」
「違っ…」
「何が違うん?ほら…」
「やっ…!」
「冬は感じ易いなぁ」
甘い甘い二人の世界へと変わったこの空間に、本来ならこの大人な出来事に戸惑うはずの幼馴染'sだが、
「はいは〜い。ギンちゃ〜ん、そこまでよ〜」
「ギンちゃんって…キモっ」
「…今なんか言った?」
「?!な、何も言ってへんやんっ」
「あっそ。で、お楽しみはそこまでよ〜」
「何でな〜ん。ええ所やったんに」
市丸は唇を尖らせて抗議する。一方、日番谷は真っ赤な顔に口をパクパクさせ、まるで鯉の様にうろたえて。
「シロちゃんったら、可愛い」
「雛森ちゃん、あかんよ?これは僕のモンやで?」
「えー誰が何時、シロちゃんを譲ったんですかぁ?しかも物扱いだなんて……市丸隊長ひどーい!」
「怖っ…」
何時もの元気な笑顔に不釣合いな物言いに、折角復活した市丸は再度縮こまり何も言えなくなって。
「って、違うでしょ?私達が此処へ来た目的は」
「せやった、一体何なん?」
その言葉を待ってましたと言わんばかりに、幼馴染二人は息を合わせ、
「"変態狐、市丸ギンからシロちゃん兼隊長を守ろうぜ隊"結成の報告に来たのよ!!」
鼻息荒く、二人は息もピッタリに市丸目掛け目的の言葉を言い終えた。
「………」
「………」
「………」
居た堪れない、間。
顔を引きつらせる市丸の何とも言えない沈黙。
「……変態っ、プッッ」
徐に日番谷が笑い出し、沈黙と言う微妙な空気にやっと動きが出た。
「酷っ、なんやねんそれ!」
「言った通りよ?」
「ハァ?」
「隊長に指一本でも触れてみなさい、私があんたを魂葬してあげるわ」
指をバキバキ鳴らしながら、松本の顔は本気を示していた。
「因みに、現在隊員の方は既に二十名程いるから。下手な事しない方が身の為よ」
「そんなぁ…」
肩をガックリと落とし項垂れる市丸。
日番谷は面倒臭そうにしながらも、市丸の頭をポンポンと撫でてやり苦笑い。
「シロちゃん良かったね?これで腰が痛くて執務が出来なくなる心配無くなったね!」
「ひっ…雛森?!」
ぶっちゃけ、雛森の目は笑ってない。日番谷とて幼い頃から一緒にいる間柄、笑顔の奥に秘める黒い渦に気付かない訳が無い。
「ま、そー言う事だから宜しくねギン!」
「………ハァ」
何はともあれ、あの隊のお陰で市丸の過剰なスキンシップも収まり、尚且つ日番谷を守るとか何とかで松本が常時執務室に居るようになった。つまりは、仕事も普段以上に捗るので、日番谷は文句一つ無い。
これが、此処暫く続いている尸魂界の暖かな日常の原因でした。
End
無理矢理すぎたorz
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