泥棒狸にご用心



「おーい、日番谷くーん」

朝も早くから俺を呼ぶ声。しかし、此処は執務室でも集会場でもない。

「っ誰だよ…わざわざ隊主室に…何の様だ」

十番隊隊長、日番谷冬獅郎の自室。普段は副官の松本か、どこかの狐しか来ない所に一体誰が呼んでいると言うのか。

「誰だ?」

襖を開けに行くのが面倒だったので、声だけで自分を呼ぶ人を確認する。

「おや?僕が判らないのかい?」

市丸程ではないが、声の主は独特な話し方をする人物。

「藍染か?」
「正解。入ってもいいかい?」

と、日番谷の返事を聞かずに勝手に襖は開けられた。

「おい…まだ何も言ってないぞ?」
「まぁいいじゃないか。結局は入るんだから」

何を言ってもひらりとかわされ、挙句、自分を正当化する日番谷がもっとも苦手とする五番隊隊長の藍染惣介。正直、俺はコイツが嫌いだ。市丸にも二人っきりになるなとよく聞かされた。

「で、こんな朝早くから俺に何の様だ?」

出て行けとも言えず、溜息を落としながらも此処に来た理由を問う。

「ん?別に」
「は?」
「聞こえなかったかな?別にって言ったんだよ」

用事も無しにわざわざ隊主室まで出向いたのか。日番谷は呆れを通り越して開いた口が塞がらない。

「あはは。まだ寝惚けているのかい?間の抜けた顔しちゃって」
「…藍染、遊び相手なら他を当ってくれ。俺は偶の休み位ゆっくりしたいんだよ」

今日、日番谷は約二週間ぶりの非番。日頃の疲れも十分に溜まってる事だしと、昼まで爆睡と決めていたのに。
予定を邪魔された事に苛立ちを覚え、目の前で微笑む藍染を恨めしそうに睨みつけた。

「他を当る気なんて無いね。君が良いんだ」
「な…何だよ」

突如、真剣な面持ちになった藍染が日番谷の座る敷布へと歩み寄る。嫌な予感に仰け反るも、藍染の歩みの方が断然速くて。

「今日は邪魔者が居ないみたいだね」
「おい…」
「やはり、襦袢姿の君は艶かしい」
「何だよ…止めろって」
「可愛い声出して。ギンは羨ましいヤツだ。いつもこの声を聞けるのだから」

藍染の手がゆっくりと日番谷の足首へと触れる。
きつくない程度に、それでも逃げ出さない位の力で。

「……っ」
「さぁ、僕にも聞かせておくれ。その妖艶な声を」

手は徐々に上へと上がって行き、脹脛から太股へ。
日番谷は恐怖で声が出ない。逃げ出せる訳も勇気も無くて。

「た、助けっ…市丸っ…!」
「残念だったね。ギンは朝早くから現世へ虚討伐に出ているんだよ。だから此処には居ない」
「いや…やだっ……」

藍染の顔が近づく。後数センチで唇が重なるそんな距離。
駄目だと思い瞳を強く瞑るが、待てど何も体に異変は起きない。
恐る恐る目を開ければ、藍染の体が後ろへと仰け反っていた。





「何してはるの?」

突如現れ、藍染の首根っこを掴む男。見上げれば、怒涛の渦を全身から放出させた……

「おや、ギン早かったね…」
「早いも何も、僕は現世になんて行ってへんからな」
「なっ?!」
「藍染はんの考えなんてお見通しや」

話が読めない。
日番谷は藍染によって乱された襦袢を直す事無く、唯呆然と話を聞き入る。

「まぁ、今日の所はこれ位で帰っておくよ」
「もう来んでええ」
「じゃーね、日番谷君」
「早よあっちへ行きっ」

しっし、と手で払われながらも満面の笑みを引き下げながら藍染は、何処へやら消えて行った。

部屋に残るは、未だお怒りモードの市丸と、狐に抓まれた表情の日番谷の二人。

「これ夢?マジ意味が分かんねぇ」
「まぁ、夢でええんちゃうん?僕が側に居たるから、ゆっくりお休み」
「…ありがと、市丸」

そう言うと、日番谷は市丸の腕の中でスヤスヤと眠りについた。





「覚えときや…人のもんに手ぇ出したら痛い目合うっちゅう事思い知らせたるからな」

眠る日番谷を抱き締めながら、市丸は泥棒狸への復讐の炎を燃やしたのであった。

End


変態藍染も好きだったり。

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