梅雨も明けたというのに未だジメジメ感の残る執務室に、項垂れながらも懸命に仕事をこなす小さな少年と、その横で椅子に腰掛けグッタリと机に突っ伏した男が一人…。
「おい…市丸、何時まで此処に居るつもりだよ」
真面目な少年は、筆を奔らせながらも問い掛ける。
「冬の仕事が終わるまで」
そう、この執務室に居たのは、この部屋の主で十番隊隊長日番谷冬獅郎と三番隊隊長の市丸ギン。
「お前、今日は休みなんだろ?」
「せやよ。なぁ〜、ドコ行く〜?」
手足をバタつかせながら、さも当たり前のように聞いてきたので、呆れながらも動かす腕を休め睨みつける。
「なんでだよ!俺は仕事だ」
「せやから、冬が終わるまで待っとるんよ?」
市丸は、きょとん…とした顔で覗き込んでくる。
「…終らねーよ」
「なにが?」
「仕事に決まってるだろ!!」
「そんなん明日すればええやん」
「馬鹿!お前みたいにギリギリの仕事はしたくないんだよ」
思わず熱くなる。
「なら、乱菊にやって貰えばええやん」
「なるほど!…って、お前と一緒にするな!!」
「一人乗り突っ込みや!」
「馬鹿にしてんのか!!」
今日も始まりました。バカップルの痴話喧嘩が… 。
「な〜、冬〜。まだ〜」
「……」
「冬ってば〜」
「……」
市丸の呼び掛けに一切応える事無く、ひたすら執務をこなす。
「冬〜?」
「……」
「えいっ!」
「!?」
一瞬何が起きたのか理解出来なかった。
「何すんだよ!」
「冬が僕を無視するからや」
地に足が着いていない…。そう、市丸によって抱え上げられていたからである。
「ふざけんな!下ろせ!」
「嫌〜」
そのままソファーまで連れて行く。
「ちょっ、市丸!!」
「何?」
「まだ仕事が……っ!!」
日番谷の首筋へキスを落とす。
「頼むから…やめ…」
「冬が僕とデートしてくれるんなら止めたる」
「…っ」
「デートしましょ」
「……判った…から」
「ほんま?!」
ガバリと顔を起した市丸の表情は、滅多に見ない程輝いていた。
「…で、これからどうすんだよ」
「……えっ?」
「え?じゃねーよ!!お前が誘ったんだろ」
「う〜ん…」
そう言えば考えてなかった。だって、冬と一緒にデートが出来るなんて…絶対断られると思っていたから。
「冬はどうしたい?」
「仕事」
「……この場で犯すよ」
「わっ!馬鹿!!嘘だよ」
ソファーの上でじゃれ合う。二人の顔は既に隊長という肩書きを忘れたかの様に満面の笑顔。
「で、どうするんだ?」
「う〜ん…」
「また今度にするか?」
「嫌や!!」
「じゃあ、どうするんだよ」
さっきから同じ事を繰り返している様な。市丸も真剣に考えているので取り敢えず自分も行きたい所を考える。正直、男同士で海やら映画やらは御免だ…。でも、初めてのデート…恋人同士の証みたいなもの。お互い真剣な面持ち…。
と、この微妙な間を変えたのは日番谷だった。
「俺、一度でいいから行ってみたい場所があるんだ」
「なになに??冬から提案なんて珍しいやん」
「現世」
「へ…?」
間抜けな市丸の顔が、やけに印象に残った。
「あ〜。久し振りの現世だ」
ぐっと背伸びをし、思い切り空気を吸う。
「現世に来たいなんて、討伐でよう来てんのと違うの?」
「ゆっくりなんて出来ないだろ?」
「そう?僕は結構遊んでるけど」
「……任務の最中ですら、サボるんだな」
「あっ、え〜と…スンマセン」
フンッと市丸を軽くあしらい、日番谷はここに来た目的の場所へと足を進める。
「ここだ…」
「……ここって」
「前来た時、チラッとしか見えなくて…気になってたんだよ」
僕の横で至福の笑みを漏らす少年。
「あの…ここ何する場所か知ってるん?」
「何って…分からないから来たかったんだよ!」
確かにその通り!!だけど、無知と言うのはこれ程までに恐ろしいものか…それともわざとなのだろうか…。
「冬…僕を誘ってるん?」
「え?」
希望に満ちてキラキラと輝く少年の瞳が僕を見上げる。……決まりや。連れて来たのは冬の方やからな!!
「わっっ!!ちょおっ、おい市丸!!!」
ガバリと日番谷を抱え上げ、一気にここの入り口へ駆け込む。
「安心しぃ。僕が手取り足取り教えたるからなww」
「降ろせ!!馬鹿!恥ずかしいだろ」
市丸に抱えられ、そのままの体制で運び込まれた。取り敢えず他の人には会ってないので、まだ救われる。
「着いたで」
恥ずかしさの余り、ずっと市丸の肩に顔を埋めていたので、自分が一体何処に居るのかさえ判らないでいた。到着の言葉と同時に開放され、改めてまじまじと見入る。
「お〜。凄いな…」
「せやね」
「あっ、アレ何?フカフカそうだな」
「あぁ、それはベットって言うんよ」
「ベット?」
「上に登ってみぃ…」
言われるがまま日番谷はそのベットへと向かう。それを見つめていた市丸の表情は確実に悪人へと化していた。市丸の黒い変化に全く気付いていない日番谷は、ベットの上に座り感触を楽しんでいる。
「冬はかわええなぁ…」
「え?うわぁっっ!」
突然市丸が覆い被さってきた。余りの唐突な事にただ驚くばかりで反応が遅れた。市丸の腕は確実に下へ下へと進んでいる…。
「嫌だ!!やめろ市丸!人が来たらどうすんだ!!」
「人なんて来ぃへんよ?」
思いっきり眉間に皺が寄る。
「なんでだよ」
「冬…本当に判らへんの??」
小さく頷く。
「ここはな、ラブホテルっちゅう所なんよ」
「ラブ…ホテル?」
「そう。恋人同士がエッチをする場所や」
「エッチ……っっ!!」
「よう理解した?」
日番谷の顔が一気に赤くなる。それを満足そうに見つめる市丸……。
「ほな、いただきます!」
「やだ!!市丸やめろ!!」
「往生際がわるいな〜」
「ふざけんな!そんな積もりで来たんじゃない!」
「はいはい。大人しくしてな〜」
日番谷の訴えを無視して事を進める。
「…市丸は…俺の体が目当てなのか?」
「えっ!何、突然……」
市丸がその言葉を不審に思い顔を上げると、日番谷の瞳から涙が溢れ出てきていた。
「ちょ、冬?!」
「…ふぇっ…うぅ〜」
「何で泣くん?そんなに嫌やったん?」
「違う…。でも今日はデートする日なんだろ…?」
両手で顔を覆いながら賢明に訴える。
「デートしてるやん」
「違うだろ!デートって二人でどこかに遊びに行くんだろ?」
「はい?」
「松本が言ってた…」
「乱菊が?!」
突然出た幼馴染の名前に思わず聞き返してしまった。
「松本が、市丸ともし、デートする事になったら、絶対体に触れさすなって…」
「はあっっ?」
「体を求めてきたらそれは俺の体目当てで付き合ってる証拠だって」
「…なんでそうなるんや……」
突拍子も無い発言に呆れかえってしまう。全く、乱菊は余計な事を吹き込みやがって…。
「冬…。僕が冬の体だけを目当てに付き合ってると思っとるん?」
「だって、松本が…」
「乱菊は関係ない。今は冬の気持ちが知りたいんや」
「俺の…?」
日番谷は瞳に溜まった涙を拭うと、市丸を真っ直ぐ見つめ答えた。
「違う。市丸と俺は恋人同士だ。体だけじゃない…」
「良ぅ言えました」
二人の顔に漸く笑顔が戻った。
「そろそろ帰ろか」
「え…でも」
「外も暗なっとるし」
確かに外は夕日も沈みかけ暗くなってきている。
「ごめん…」
「何で謝るん?」
「だって…折角のデートだったのに…」
日番谷はションボリと下を向いたまま顔を上げない。
「デートって言うんは、二人っきりで一緒に居る時間の事を言うんよ?」
「え…」
「今、僕達二人っきりやろ?」
「うん…」
「なら、デートしてるやん」
市丸のその言葉を聞き、漸く日番谷の顔が市丸へと向けられる。
「本当に?」
「うん」
「でも…」
まだ何か言いそうだったので、市丸はすかさず言葉を付け足す。
「デートってな、別に一日中部屋に居ても、どこか遊びに行っても、エッチばっかしてても、何しても良いんよ?」
「そうなの?」
唯でさえ大きな日番谷の瞳が更に大きく開かれる。
「で、今日は現世デートの日」
「うん」
二人は自然とお互いの手を握り締めた。
「でも俺…お前に何もしてやってない……」
やっと笑顔が戻ったと思ったのに日番谷は又、下を向いてしまった。
「僕は、一日中冬と居れただけで十分や」
「本当?」
「冬は?嫌やった?」
「嫌じゃない…」
「なら、今日のデートは大成功や!」
市丸は徐に抱きついた。余りの勢いにベットへと押し倒される。
「市丸…」
「うん?」
日番谷の顔が徐々に近づく……。
チュッ…。
「冬…」
「ありがと」
「うん。またデートしよな」
「今度は俺が誘うよ」
「ほな、待っとるな」
「あぁ」
そうして二人は仲良く尸魂界へと戻って行った 。
End
無知な冬ちゃんが好物ですvv市丸さんは、変な所で紳士になるといい。
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