「あの〜…日番谷くん?」
「なに?」
「いや、あのね……これは少しマズいんじゃ…」

抱き締めてもいいですか



季節は冬。
太陽が出ている今も、吹き抜ける風は酷く冷たい。

僕は久し振りにもらった非番を有意義に使おうと本を片手に縁側へと来ていた。
そこに突如現れた少年は隊長の証しの羽織りを身に付け、更に大きな羽織りを上から着て、トコトコと小さな足音を立てて僕の座る横へと着いた。

「どうしたの?珍しいね」
「藍染、今日は休みか?」
「そうだよ。日番谷くんも非番かい?」
「ああ。一緒していいか?」
「構わないよ」

予想外の一言に僕は冷静を装い返事をした。
しかしこれと言って会話は無く、日番谷くんは僕の手元にある本に興味があるのか、視線は一点を見詰め動かない。

ぴゅう―…。
一瞬、冷たい風が僕達の間を駆け抜けて行った。

「へっ…くちっ」

何だ今の可愛過ぎるくしゃみは?!

「寒い?」
「大丈夫。それより、その本面白いな」
「え、ああこれ?読む?」
「うん」

返事を聞いて、僕は本を渡そうとした……のに。

「ひ、日番谷くんっ?!」
「これなら暖かいし、本も読めるぞ?」
「……」
「嫌か?」

嫌って言うか……。
僕は嬉しい限りだけど…。


一応、君には恋人が居る訳で……。





「冬ーーーーー!!!!!!!」

ほら来た。血相を変えた狐が一匹、ドタバタとこの雰囲気には不釣合いな音を立てて。

「市丸?!お前、執務はどうしたんだよ」

悪そびれた感じも無く、飄々と目の前の恋人を睨み付ける。

「どうしたちゃうやろっ!なにしとるんっ!」
「なにって……読書」
「読書ちゃう!なんで……なんで藍染はんの膝に座ってるんか聞いとんねやーーーっっっ!!!!」

怒り爆発。
と同時に、ずかずかと僕達の前に歩み寄る市丸。

目は見開き、笑顔の片鱗さえ見せずに。

「ぉわっ?!ちょっっ」
「許さへんで!お仕置きやっ!」

哀れ、腕を鷲掴みされ連れ去られる僕の可愛い子。
未だ訳の判らないといった感じの表情で、そのまま僕の視界から二人は消えて行った。





どうせ連れて行かれるんなら



一度くらい抱き締めておくんだった。

End


本人は悪いと思っていません。
なんでギンちゃんがキレてるのか本気で判っていません(笑)

<< Back